◆早坂茂三『田中角栄、頂点をきわめた男の物語』を読み解く

 

◆早坂茂三『田中角栄、頂点をきわめた男の物語』を読み解く

※要旨

・田中角栄の毎日は凄かった。
たとえば、オヤジは夜9時になると寝てしまう。
パタンキューだ。

それで夜中の12時ごろに起き、
2時間ぐらいの間、役所から届いた資料、数字やら、
読みかけの本やらを読む。

・あるいは、大事な手紙の返事を書く。
メモを整理する。

それから、国会便覧に目を通したり、
日本地図を拡げて各選挙区の地勢や状況を頭に入れる。
ちょっと一杯やってから床について、
朝6時にはもう起きだして新聞を読む。

・わたしは何度となく、オヤジから言われた。
「メシ時になったら、しっかりメシを食え。
シャバにはいいことは少ない。
いやなことばっかりだ。

それを苦にしてメシが食えないようではダメだ。
腹が減って、目が回って、大事な戦はできん」

・あの人はどんなイヤなことがあっても、
修羅場の中でも、メシ時になると大声で叫ぶ。

「メシ!」

どんな修羅場でもメシが食えるのは、
腹ペコでは何も出来ないということを
経験的に知っているから。

くよくよしても仕方のないことは、くよくよしない。
やらなければならないことは、
万難を排してもやる。
これが田中のオヤジだ。

・田中角栄はもともと運命論者だ。
とことん人事は尽くす。
勉強はする。
努力はする。努力は惜しまない。
計画も綿密に立てる。
熟慮したら、断行する。
しかし、結果について幻想はまったく抱かない。

・オヤジが小学校卒で、総理大臣になった最大にして唯一の理由は、
「田中角栄は人間をよく知っている」
これに尽きると思う。

・まじめに働いても報われない人の辛さ、
悲しみも見てきた。
体験もした。

権力と金の恐ろしさも知った。
世間には実にさまざまな人間がいる。
一筋縄ではいかない。

・田中は、自分がけわしい山道を抜けて出てきたから、
そこがわかる。
と同時に、どうしたら人に、
力のある人に認めてもらうことができるか、
存在に気づいてもらうことができるか、
そのためにどうすればいいのか、
どうすれば仕事をもらえるか、
辛酸をなめる中で体得してきた。

・さらに、一文の銭をあがなうために、
人はどれだけ辛い、切ない思いをするかということも知ってきた。

そして、あの土建屋の凄まじい仕事を取り合う中で、
金というものがいかに人にとって力になるか。
また逆もあるか、
実体験として骨身に沁みて味わってきた。

・いかにして人の心を頂戴するか。
信用と実績を積むには何をすべきか。
かれはそのへんを詳細に検討した。

経験から学び、率直に反省し、
失敗から成功に至る道程をてさぐりで探し、
結論を整理して、脳裡に焼き付けた。

・苦労と経験こそ成功の母だ。
一朝一夕にはいかない。

結局、オヤジは苦労と経験を積み重ね、
実学で人間の真贋を見分け、亭々たる大樹になった。
その意味で、田中角栄は本当に「去華就実」の申し子だ。

・昭和32年、第一次岸内閣の改造で田中角栄は郵政大臣になった。
衆院当選5回、39歳の若さだ。

・オヤジは大臣になるとすぐ、
36局に及ぶ民間テレビの大量一括免許を断行した。
まわりの政治家たちも驚いたが、
官僚が腰を抜かした。

・大臣の多くは面倒な仕事を先送りする。
さわらぬ神にたたりなし。
大過なく任期を終える。

そうした大臣をみなれていた役人連中は目を見張った。
必要な仕事をテキパキ片付ける。
役人をキチンと立てる。
信賞必罰。
組合ともハダカで付き合う。

・学もない田中角栄が、
なぜか秀才官僚を手足のように動かす。
自民党内部でもジャーナリズムでも首をかしげていた。

しかし、これは連中の無知の反映だ。
オヤジは大臣として郵政省に乗り込むまでの無名の10年間に、
日本政治史上、例を見ない議員立法の国会活動を展開していた。

・大蔵省、建設省などのウルサ型を相手に、
柔道でいえば「引かば押せ、押さば引け」方式で、
役人に言うことを聞かせるコツを身につけていた。
学卒で世間知らずの秀才青年が大臣になったわけではない。

・だから役人は、オヤジと一日いるだけで
青年大臣の凄さがすぐわかった。
これなら安心してついていける。
仕事に汗を流しても損にならない。

・驚くべきことは、39歳で郵政大臣になった田中角栄が、
すでにその若さで官僚たちの心をとらえる存在で
あったというところにある。

かれらは、この土建屋のチョビヒゲ大臣の中に、
ただならぬ力を感じ取っていた。
初めに実績ありき。
これが最大だ。
それに実行力と、気が遠くなるほどの気くばり。

・田中は、つねに一点集中主義、全力投球だ。
これと決めたら、徹底的にやる。
ゴルフをはじめるときも、まず、3ヶ月間、本を読んだ。

ゴルフとは何か。
そこから始めた。
理論武装から入っていった。
そこからインドアの練習場で3ヶ月。

・政治の根っこは、「義理と人情」。
昭和53年、再選を目指す福田赳夫総裁と大平幹事長が、
総裁ポストをめぐってシノギをけずった。

オヤジは「大平総裁」実現のため必要な布石を全部、打ち終えて、
満を持しながら開票日に臨んだ。
それを福田さんもマスコミも知らない。

・北海道から沖縄に至る日本中の知事、役所の出先機関、
農協や漁連の会長、市町村長、県議会の議長、県連の幹事長、
など全国各地にはすべて大ボス、中ボス、小ボスがいる。
いいとか悪いとかではなく、存在している。
それが現実だ。

・それぞれの大小ピラミッドの頂点にボスがいる。
その命令一下、大勢の人が動き出す。
選挙に勝つには、
そのヒエラルキーを動かせるか否かにかかっている。

どこに電話をかけて、
どのボタンを押せば何票出てくるか。
それをオヤジは知り尽くしていた。

・我が国の地方権力がどのように形成されているか、
キーパーソンは誰か、
掌を指すように熟知している。
しかも大小の付き合いがある。
ツーカーの間柄も多い。

・オヤジは総裁選挙のはじまる1ヶ月前から私に命令した。
「北海道から沖縄に至る大中小のボス、しかじかくかくの名前を
すべて書き出せ。
自宅、会社、役所の電話番号をことごとく書け」

わたしは、横1.5メートル、長さ10メートルの白紙に一週間かけて
必要事項をあますところなく書き込んだ。
目白の誰も来ない部屋でシコシコやった。

そして、オヤジは、その上にあがり、
赤い色エンピツを持って、私に命令する。
「札幌のだれそれ」

そして、次々と電話して、票を固めていく。

・一心不乱の集中力。
田中のオヤジが凄いと思うのは、
新聞や雑誌のインタビューに応じる時の用意周到さだ。

私がまず記者に会って、
質問項目をもらう。

そして私が骨組みを書いて、オヤジにみせる。
そこで彼は、私に資料の用意を命じる。

あるテーマがあれば、
その戦後のフシ目フシ目の数字を
「全部集めろ」
という。

・それから、
「当時の法律はどうなっていたのか、それを全部整理せよ」
と命じる。
わたしはそれらを全部、用意する。

提出された膨大な資料を手許に置いて、
オヤジは赤エンピツを片手に線を引きながら、
一心不乱に読んでいく。
1時間、2時間、まったく勉強に集中する。
その集中力たるや、恐ろしいくらいのものだ。

・いざインタビューに入ると、
田中は資料をいっさい見ない。
ほとんどの数字や内容が頭に入っている。

もちろん神様ではないから、
たまに間違ったり、度忘れすることもある。

・しかし、そばで同じ資料を見ている私が一言、
助ければすぐに思い出し、あとは一瀉千里だ。
呆れるくらい頭によく入っている。

※コメント
やはり角さんのエピソードは面白い。
しかも一番近くにいた秘書の早坂さんの話は、
見習う点が多い。
記者出身なので、読み応えがある。

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