書評 しょひょう : 三好範英『本音化するヨーロッパ』(幻冬舎新書)

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「この国はまだドイツなのか?」 アイデンティティの喪失を嘆くドイツ人
 「エリートの建前は、もう聞き飽きた」と庶民の感情的反応が露骨

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三好範英『本音化するヨーロッパ』(幻冬舎新書)
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 ことしの二月に、評者(宮崎)はベルギーの首都ブラッセルにいた。

下町からタクシーを走らせてEU本部を見学に行った。

EU本部、EU議会などが集中する一帯は「エリート村」とでも言おうか、机上の空論を戦わせながらワインを飲んで、分厚い書類の山を築き上げる、鼻持ちならない貴族的雰囲気が、このEU村に漂っている。

驚くことにブラッセル市民は、このEU本部一帯が気に入らないようだ。

「ヨーロッパの左右のポピュリズム政党の通底する特色とは、反グローバリズム、反エリート、反既成政党・メディア、そして比重が大きいのが反EUの立場である」と著者の三好氏は現場の変化を報告する。

だが、EUを守り、ユーロが良いと放言し、既存の既得権益にしがみつく守旧派(かれらがメルケルを支持するグループだが)、露骨に「ドイツのための選択肢」の政治活動を妨害する。

ビラまきや集会に嫌がらせにでかける。『ドイツのための選択肢』は反EU、反難民の政治運動だが、選挙の度ごとに支持者が飛躍してきた。

自由、民主主義を危うくする左翼が、健全な保守系を攻撃すると、前者の味方であるドイツのメディアは、最初から「極右」と決めつけ、つまり左の右攻撃に対しては、「ドイツメディアは寛容である(中略)。

中国や韓国の度が過ぎた反日運動を表現するときに使われる『反日無罪』という言葉を思い出す」(165p)。

ドイツのメディアは一貫して反日である。

そして難民、アイデンティティの喪失。

各国に急拡大するポピュリズム。

EUは解体へ向かって驀進をはじめたかに見える。

政治的変化の地殻変動がEUの策源地だったドイツでおこり、周辺国へ飛び火した。

極左メディアから「極右」と誹謗される「ドイツのための選択肢」は、選挙毎に票を増やし、フランスでも「国民戦線」のルペンが大統領選挙決戦投票まで残った。

いずれもあと一歩で、フランスとドイツで政変がおこる可能性が高まったといえる。

つまり「エリートの建前は、もう聞き飽きた」という庶民の感情的反応が露骨にあらわれたのだ。

シリアからアフリカからの難民の大量流入が、そうした激変の直接的要因となった。

ドイツ特派員歴が合計十年の長き日々をドイツ取材にすごした三好氏は、現在読売新聞編集委員である。

かれはリトアニアへ、ギリシアへと話題の事件がおこると現場へ飛んだ。
 
そして、ここに中国が絡んでくる。

ドイツの親中派の拠点は最西部の港湾都市デュースブルグ。

「ライン河とルール河の合流点にあり、もともと世界最大と言われる内陸港をもつ陸湾都市で、交通の要衝」。

このデュースブルグにおける対中重視は、不景気だった地元経済を、中国からのシルクロードの鉄道輸送のハブとして活性化できた事由により、中国が死活的に重要で、デュースブルグの経済的転換は「中国との関係にかかっている」(242p)と港湾関係者は言うのである。

中国の安全保障上の脅威には楽観的で、孔子学院も開設されているが、スパイ機関だという警戒心が薄い。

ここが習近平の大看板「シルクロード」の終着駅で、ドイツ最大の親中ムードに溢れる一方、皮肉にも「ドイツのための選択肢」の得票率も一等多いのである。

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