大移民時代に突入した「亡国のニッポン」を憂う

三橋貴明(経世論研究所所長)

 現在の日本は、財務省主権国家であり、政商主権国家でもある。

とにもかくにも、財務省の緊縮財政路線が強要され、国民が貧困化し、同時に人手不足が深刻化し、政商たちが「外国人労働者」の受け入れビジネスで利益を稼ぐスキームが成立してしまっているのだ。

 政府の目的とは、ビジネスでも利益でもない。
 
経世済民である。国民が豊かに、安全に暮らせる国を作る。これが、経世済民の精神だ。
 それに対し、自らのビジネスにおける利益最大化のみを目的に、政治を動かそうとする政商と呼ばれる連中がいる。
 
代表が、竹中平蔵氏が代表取締役会長を務めるパソナ・グループだ
 
さらには、自らの出世のこと以外には眼中になく、ひたすら緊縮財政路線を推し進める「亡国の省庁」たる財務省。

 日本は財務省と政商たちに都合が良い政策「のみ」が推進され、国民が貧困化すると同時に、移民国家への道をひた走っているのだ。
 筆者は10月31日に小学館から刊行した「財務省が日本を滅ぼす」に、

 

「2018年度は、診療報酬と介護報酬が同時に改定される、6年に一度の年となる。

財務省は、もちろん診療・介護報酬の『同時引き下げ』を目論(もくろ)んでいる

 と、書いたのだが、予想通り来た。

 10月25日の財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)において、財務省は医療および介護サービスの公定価格を見直す報酬改定について、いずれも減額を要求してきたのである。
 
すなわち、診療報酬と介護報酬の同時引き下げだ。

 ちなみに、介護報酬引き下げの理由は、財務省に言わせると、「15年度の改定時に、基本報酬4・48パーセント削減という大幅なマイナス改訂をしたが、さらに削減が必要。

 
介護サービス全体の利益率は、中小企業の平均よりも高く、おおむね良好な経営状況である」というものだった。

生活習慣やルールの違いなどについて説明を聞く外国人職員ら
=2017年5月31日、島根県出雲市
生活習慣やルールの違いなどについて説明を聞く外国人職員ら =2017年5月31日、島根県出雲市
 
 財務省の緊縮財政により、日本の総需要の不足は続き、デフレからの脱却が果たせないでいる
 
需要が拡大しないデフレ下では、中小企業の利益率は落ちていき、赤字企業が増えていかざるを得ない。
 
介護産業は、15年度の介護報酬減額で利益が一気に減ったとはいえ、まだ「プラス」である。
 
だから、さらなる減額、と財務省は言ってきたわけである。
 財務省の緊縮財政路線でデフレが深刻化し、中小企業の利益が減った。
 
結果、介護の利益率が中小企業平均を上回る状況になったため、デフレ化政策たる介護報酬引き下げが強行される。
 
これが、現在の日本の姿だ。
 現在、介護職の有効求人倍率は3倍を超え、産業としては医療や運送、土木・建設を上回り、日本で最も人手不足が深刻化している。
 
理由は、単純に給料が安すぎるためだ。
 
介護職の平均給与は、産業平均と比較し、女性が月額▲3万円、男性が月額▲10万円と、悲惨な状況に置かれている。
 
その状況で、財務省は「利益率が高い」などと言いがかりをつけ、介護報酬を削ろうとしているのだ。

 2016年度の介護関連企業の利益率にあたる収支差率は、全介護サービスで3・3パーセント。
 
介護報酬減額(15年)前の2014年度の7・8パーセントから、大きく落ち込んだ。
 この状況で、さらなる介護報酬削減に踏み切ると、どうなるか。
 
高齢化で需要が増え続ける中、介護報酬が削減され、今度こそ介護は「赤字が常態化」する業界になる。
 
そうなると、事業を継続する意味がなくなるため、日本は介護の供給能力が激減し、高齢者が介護サービスを受けられなくなる形の「介護亡国」に至る。
 
(当然、日本のデフレ化も進む)

 あるいは、介護事業者がさらに給料を引き下げ、人材の流出(というか「逃亡」)が加速することになる。

図 日本の介護福祉士登録者(左軸、人)と介護福祉士の従事率(右軸) 
出典:厚生労働省
図 日本の介護福祉士登録者(左軸、人)と介護福祉士の従事率(右軸) 出典:厚生労働省
 
 現在、介護福祉士として登録している「日本人」は140万人を超す。
 
それにも関わらず、従事率は55%前後の横ばいで推移したままだ。

 さらに不吉なことに、2017年から介護福祉士の国家試験への受験申込者数が急減している。
 
社会福祉振興・試験センターによると16年度は16万919人だった受験者が、17年度は7万9113人と、半減してしまったとのことである。
 
政府の介護報酬削減(2015年)で介護が儲からない産業と化し、就職すると「貧困化する」という現実を、介護産業への就職志望者たちが知ってしまったのではないか。
 本来、介護産業における人手不足は、介護福祉士の資格を持っていながら、業界で働いていない「日本人」を呼び戻すことで埋めるべきだ。
 
とはいえ、そのためには介護報酬を引き上げなければならない。
 
すると、財務省の緊縮財政路線とぶつかる。
 
「財務省主権国家」では、介護報酬の引き上げはできない。
 
むしろ、介護報酬は引き下げられ続ける。
 
すなわち、介護サービスの給料はさらに低下し、日本人が逃げる。
「ならば、外国人を雇えばいいではないか」
 ということで、17年11月に外国人技能実習生制度の、介護分野への適用につながるのだ。
 
介護分野が技能実習生制度に解放されたことを受け、デイサービス大手のツクイが、ベトナムから年内に約150人を、学研ココファンも、2020年までにミャンマーや中国などから120人程度を受け入れる予定とのことである。
 
 
そもそも「技能実習生」は外国人労働者ではない。
 
先進国である日本が、アジア諸国から「実習生」を受け入れ、現場で働くことで技能を身に着けてもらう。
 
通常3年、最長5年間の「実習」の終了後は帰国させ、祖国に貢献してもらう。
 
これが技能実習生の考え方だ。

 とはいえ、今回の外国人技能実習制度の介護への適用は、明らかに「人手不足を補うための外国人労働者受け入れ」である。
 
何しろ、介護の有効求人倍率は3倍を超えるのだ。
 
しかも、対人サービスとしては初めての技能実習生受け入れとなる。
 介護分野における人手不足の原因は、政府が介護報酬削減を続けるため、十分な給与を支払えないことだ。
 
解決策は、介護報酬拡大(および人件費に関する規制強化)であるにも関わらず、そこからは目をそらし、国民的な議論なしで対人サービス分野において「移民」の大々的な受け入れが始まる。
 
わが国は、恐るべき国である。
 ちなみに、「移民と外国人労働者は違う」といった詭弁(きべん)は通用しない。
 
国連は、出生地あるいは市民権のある国の外に12カ月以上いる人を「移民」と定義している。
 
経済協力開発機構(OECD)の定義では「国内に1年以上滞在する外国人」が移民だ。
 
1年以上、わが国に滞在する外国人は、全てが「移民」なのである。
 
もちろん、介護分野に流入する技能実習生も、れっきとした移民になる。

介護施設で利用者を介助する外国人スタッフ= 2009年9月25日
介護施設で利用者を介助する外国人スタッフ=2009年9月25日 

 現在の安倍政権は、恐るべき熱心さで日本の「移民国家化」を推進していっている。

 
安倍総理は、保守派の政治家と思われている。
 
普通、国民や国家を重要視する「保守派」の政治家は、移民受け入れに反対するはずなのだが、とんでもない。
 
日本の憲政史上、安倍内閣ほど移民を受け入れた政権は存在しない。
 
2012年には68万2千人だった日本の外国人雇用者数は、2016年に108万4千人に達した。
 
4年間で、およそ1・6倍にまで増えたのだ。
 特に、今後も人手不足が深刻化することが確実な介護分野において「移民」受け入れを決めてしまったことは、将来に重大な禍根を残す可能性が高い。
 現在は、介護サービス業が試験的に技能実習生を受け入れているだけだが、今後も「外国人労働者」の需要が拡大すると、なし崩し的に規制緩和が進み、やがては「ヒトの売り買い」で儲けるパソナをはじめとする大手派遣業者ら「政商」が市場に参入してくることになる。
 
政商たちの手により、世界中のあらゆる地域から、「安く働く外国人労働者」を日本の介護分野に大量供給されていく。

 やがて、わが国の国民に、「介護? ああ、外国人が働く業界ね」といった認識が広まり、日本の介護サービスは移民無しでは成り立たない状況に至る。

 そこまで行くと、もはやポイントオブノーリターン(後戻りできない地点)である。
 
われわれは日本国の二千年を超す歴史上初めて「移民国家、日本」を将来世代に引き継ぐことになってしまうのだ
 将来の日本の教科書には、2017年11月1日の技能実習制度の介護分野への適用こそが、日本の本格的な移民国家化の始まりだったと書かれることになる。

 本当に、それでいいのだろうか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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