この先もあると思うな国民皆保険 麻生発言は全然アホらしくない

この先もあると思うな国民皆保険 麻生発言は全然アホらしくない
谷本真由美(コンサルタント兼著述家)
 
 ハロウィーンもすっかり終わってしまい、寂しい独り身の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 
この前まで夏だと思っていたのにすっかり年末の気分で寂しい限りです。
 
もの悲しくなってくる季節にネットに壮大な炎上の炎を投下してくださったのは、麻生閣下です。
 
 麻生太郎副総理兼財務相が10月23日の会見で「不摂生している人の医療費を健康に努力している人があほらしい」との意見に同調する発言をしたことが問題視されており、ネットを中心に大炎上しております。
 
 麻生氏の発言は下記になります。
 「飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」
 
 また、「自身も同じ考えか」という質問に麻生氏は「生まれつきのものがあるし、一概に言える簡単な話ではない」と答えています。
 
ちなみに、2008年にも「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と経済財政諮問会議で発言し、後に陳謝しています。
 
 この発言を読んでも、まあいつもの麻生閣下のことであるなと特に驚きもしなかったのでありますが、日本の一定層の人々の怒りに唐辛子を塗り込むような効果があったことは間違いありません。
 
この一定層の人々というのは国民皆保険サービスというのは当たり前のことであり、誰しも平等に医療を受ける権利があると信じている人々のことです。
財政制度等審議会の財政制度分科会であいさつする麻生太郎財務相(右)=2018年10月
財政制度等審議会の財政制度分科会であいさつする麻生太郎財務相(右)=2018年10月
 
 しかし、ちょっと振り返って考えてみましょう。
 
実は国民皆保険サービスというのが始まったのはそんなに昔の話ではありません。
 
日本やイギリスをはじめとする各国で始まったのは、第二次世界大戦後のことでありました。
 
 なぜかと言うと、戦争であまりにも多くの負傷者や障害者が出てしまい、医療費を払えない人が大量に発生してしまったため、これでは破壊された街を復興させるための労働力を確保できないので困るとして各国の政府が国民皆保険サービスというものを考えついたわけです。
 
 国民皆保険サービスというのは収入がある人たちから一定のお金を集め、それを使って医療サービスを提供するという、まあある意味宝くじのような仕組みです。
 
提供する医療サービスというのはたくさん払っても少なく払っても平等というのが建前です。
 
建前というか、実質そういう国がほとんどです。
 
前述したように、国民皆保険サービスが日本や欧州で設計されたのは戦後すぐのことでした。
 
戦争でかなりの数の人が亡くなり、人口も今より少なく人の移動もほとんどありませんでした。
 
当時は人々の収入格差も今と比べて大きく、高額納税者の所得税は70%とか80%に達することもありました。
 
つまり、ごく少数の大金持ちからお金をむしり取ってそれを貧民の健康維持に使い、社会全体を何とか回して行こうという仕組みでありました。

 
 しかし、この仕組みは、使う人の数が少なければ成り立つのですが、使う人が多く、さらにその数が急に増えたりするとシステムが崩壊してしまいます。
 
この状況がかなり過激なことになっているのがイギリスをはじめとする欧州各国の国民皆保険制度です。
 
EUの移動の自由化で何が起きたかと言うと、東欧や西側諸国の貧しい国や町から豊かな都市へ人々が大規模に移動して住み始めたことでした。
 
住むのも働くのも許可が一切いりませんから、当たり前の状況です。
 
 そして、10年ばかりの間に特定の町の人口が急激に増え、病院利用者が大幅に増加しました。
 
しかし、病院の予算は国保や税金で賄われており、その予算が急激に増えるわけではありません。
 
移動してきた人の中には短期滞在の季節労働者や学生も大量にいました。

 
 さらに、欧州では日本のように高齢化が進んでいるので、高齢者の病院費用も激増しました。
 
そこで発生したのが質の激烈な低下です。
 
イギリスの場合は時間外の夜間緊急窓口に行った場合、4時間から8時間待たされるということも珍しくありません。

 
 重症者を優先するからという言い訳がありますが、かなり具合が悪くても廊下で長時間待たされることがあります。
 
MRI(磁気共鳴画像装置)やCTスキャン(コンピューター断層撮影装置)などの機器も少なく、検査を受けるのに2カ月、3カ月待たされることも当たり前です。
 
 病院はお金がなく、人が雇えませんので外科医やスタッフの数も多くはありません。
 
手術が当日や前日になってキャンセルされてしまい、数カ月先に延ばされてしまうということもあります。
 
また、入院ベッドの数も足りないので一般家庭に患者の面倒を見ることを外注する仕組みにまで手を出し始めています。
 
 私は世界各地のいろいろな病院で世話になっていますが、イギリスの病院の中には中国やロシアの病院よりもひどいところがありました。
(ゲッティ・イメージズ)
(ゲッティ・イメージズ)
 このような状況にもかかわらず、健康保険の費用というのは安くはなく、年収が700万円ぐらいまでの人は収入の9%を支払い、年収が700万円を超える人の場合は2%を払います。
 
高額収入者の場合はこの2%というのは莫大な金額になりますが、受けられるサービスは、病院によっては発展途上国並みのサービスです。
 
 高いお金を払ってもサービスを受けられないので中流以上の多くの人は民間の保険に入ってプライベートで医療サービスを受けています。
 
つまり自分が払っている健康保険は他人の治療に使われているわけです。

 
 このような状況ではありますが、イギリスの国立病院は太り過ぎの人に減量手術を提供したり、海外で整形手術を受けて豊胸手術に失敗した人に対して修正の手術を行います。
 
海外から飛行機でやってくる臨月の妊婦は無料で出産をすることができます。
 
かなり進行した白内障の老人が海外から飛行機でやってきて緊急で手術を受けることもあります。
 
費用を徴収しようとしても外国に逃げてしまうので回収できないことも多いです。
 
 
 
このように、イギリスの場合、かなり極端な例が多いわけですが、同国だけではなく欧州でも国民皆保険に対しては制度が既に崩壊していると言って不満たらたらの人が多いのです。

 
 日本は、クレジットカードの多重債務者のような財政状況であるのに医療費は惜しまず、どんどん使いまくっていますし、地方交付金も配りまくり、市役所や道路にお金を使いまくっています。
 
育児支援だってはっきり言ってほとんどの欧州の国より充実しているんです。
 
 恐ろしいスピードで少子高齢化が進んでいる日本で役所が財布のひもを締め始めた場合、今のレベルで医療サービスの質が維持されると思っている方はどのぐらいいるでしょうか? 
 
医療サービスの質が下がるということは、月6万円の健康保険料を払っても自分が手術を受けられるのは1年後ということが当たり前になるということです。
 
 病院のベッドのシーツは取り換えられず、医療スタッフは給料削減で働く人はいないので外国人だらけになります。
 
病院食はレンジでチンするだけの冷凍食品になります。
 
心臓の手術を受けても退院するのは翌日です。
 
 こういう状況にサラリーマンの皆さんが直面することが当たり前になるようになっても、
 
・不摂生で太りすぎた人の減量手術を優先してあげましょう
・不妊をしなかったので妊娠してしまった10代の母の出産費用は全部無料にしてあげましょう
・アルコール中毒になった人の治療は全部無料にしてあげましょう
 
といった寛容性を維持できるのかどうか、私には分かりません。
(ゲッティ・イメージズ)
(ゲッティ・イメージズ)
 私は社会全体の幸せや安定性というものを保つために国民皆保険というのはあった方が良いと思います。
 
社会というのは多くの人がいてモノを売り買いし、サービスを消費するからこそ豊かになるのです。
 
 モノを消費するのには仕事をして稼ぐことが重要ですし、安心して仕事をするためには病気になっても手軽に治療を受けられて自己負担が少ないという仕組みは、とても重要です。
 
ごく一部の豊かな人がレベルの高い生活を享受するアメリカ型のモデルは日本には合いませんし、社会の安定性は失われます。
 
 しかし、残念ながら日本にはお金がないのです。
 
多くの人に質の高い医療サービスを提供することが難しくなっているのです。
 
その現実をいったい何人の人が自覚し、自分は高い保険料を払っても治療が受けられないと言った立場になるのか。
 
それをきちんと理解すべきではないのでしょうか。

 

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