麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です。

麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です。

  鈴木英雄(筑波大学附属病院つくば予防医学研究センター副部長)
 
 麻生太郎財務相が10月23日に行った閣議後の記者会見の内容が波紋を広げている。
 
 予防医療推進に関する質問に対し「『自分で飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言っていた先輩がいた。
 
良いことを言うなと思って聞いていた」と答えたというもの。
 
記者から自身の考えを問われると「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と補足説明した。
 
 麻生氏の同様の発言は、実は今回が初めてではない。
 
内閣総理大臣在任中の2008年11月の経済財政諮問会議では「67、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらかかっている者がいる。
 
(中略)たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」と発言している。
 
 2013年4月の都内会合でも「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」と発言。
 
いずれも健康の維持に努力している人とそうでない人での医療費に関する不公平感を述べたものであるが、一部が「病気になるのは本人の自己責任」と受けとられたことから議論になった。
 
 折しも、中東で監禁、釈放されたフリージャーナリストの安田純平氏に自己責任論が噴出しているが、病気も自己責任なのか。そこには一概にそうとはいえない事情が隠れている。
 
 2015年度の国民医療費は42兆3644億円で、前年度から約1兆5000億円増加し過去最大となった。
 
政府の推計によるとこの額は2040年度には68兆5000億円まで膨らむ見通しである。
 
その理由としては高齢化に加え、新薬の薬価が高騰していることが挙げられる。
閣議終了後、記者団の質問に答える麻生太郎副総理兼財務相=2018年9月、首相官邸(春名中撮影)
閣議終了後、記者団の質問に答える麻生太郎副総理兼財務相=2018年9月、首相官邸(春名中撮影)
 ノーベル賞で話題となったオプジーボは画期的ながん治療薬であるが、当初の薬価は1瓶(100mg)あたり約73万円。
 
体重60キロの患者が1年間使用すると、なんと年額3500万円にも及ぶものだった。
 
 相次ぐ高額な新薬に対し、財務省は10月9日の財政制度等審議会で、経済性に応じて公的医療保険の適用外にすることも検討するという、かなり突っ込んだ改革案を示している。
 
同改革案には予防医療に関して「予防医療による経費節減効果は明らかでない」とも示されている。
 
 予防医療=医療費削減と思われがちだが、実は予防医療のうち医療費抑制に有効なのは約2割しかないとの報告がある。
 
予防で病気の発症を遅らせても、いずれは何らかの病気になり医療費がかかる、つまり予防医療はかかる医療費を先送りにしているにすぎないというわけだ。
 
予防医療のメリットはむしろ、医療費削減ではなく健康長寿にあると思った方がよい。
 
寿命の延長により家族や友人と過ごせる期間が延びることは経済では語ることができない。
 
 
さらに、その間に就労が可能であれば社会活動に伴う税収増にも寄与しうる。
 
安倍政権は、予防医療による健康長寿と高齢者雇用の拡大を社会保障改革の柱としている。
 
予防医療の推進は医療費削減ではなく、健康長寿とそれによる社会生産性向上を目的として議論すべきである。

 
 この問題で思い出されるのは2016年のフリーアナウンサー、長谷川豊氏による「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というブログ記事である。
 
本件に対してはあっという間に批判が殺到し、人工透析患者の偏見につながるとして全国腎臓病協議会も抗議文を出すに至り、結果として長谷川氏は当時の全ての番組を降板することになった。
 
 結論から言うと、病気に自己責任論を持ち込むのは無理がある。
 
なぜなら、危険を伴う地域への渡航と異なり、自ら進んで病気なる人は誰もいない。
 
そして、生活習慣の努力の程度は、線引きが事実上不可能だからである。
 
病気は複合的な要因で生じるため、遺伝や社会環境など個人ではどうしようもない部分があり、自助努力だけで防ぐことはできない。
 
 一方で、過度の飲酒や喫煙、運動不足で自堕落な生活をしていても病気にならない人もいる。
 
病気に対する自己責任論を突き詰めると、国民皆保険制度の崩壊につながってしまう。
 
その先の未来がどうなるかはアメリカの医療をみれば明らかであろう。
 
 予防医療の目的を純粋に健康長寿とした場合、健康意識や健(検)診受診率の向上を目指すにはどうしたらよいのであろうか。
 
「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影)
「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを
発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、
東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影)
 一つが健康状態のいい人や健康管理に努力している人を優遇するというやり方である。
 
民間保険ではリスク細分型保険というカテゴリーの商品がすでに定着している。
 
非喫煙者を対象としたノンスモーカー割引は、ニコチンを検出する唾液検査をクリアすることが条件で、保険を契約する際に通常の保険料の10~30%の割引を受けることができる。
 
 第一生命は健康診断割引特約として健康診断書などを提出するだけで保険料を割引し、体格指数(BMI)18以上27以下、血圧が最低85mmHg未満かつ最高130mmHg未満、40歳以上ではHbA1c5・5%以下といった良好な健康状態の人はさらに割引になる商品を開始した。
 
民間保険は加入が任意なので、このような方法でなんら問題はないが、公的保険に関してはかつて議論が巻き起こった。
 
 小泉進次郎衆議院議員らが2016年10月に雇用や社会保障に関する政策提言の中に取り入れた「健康ゴールド免許」制度である。
 
この制度はIT技術を活用することで、個人ごとに健(検)診履歴などを把握し、健康管理に取り組んできた人へ「健康ゴールド免許」を付与し、病気になったときの自己負担割合を3割から2割に減免するというもの。
 
しかし、発表直後から賛否が巻き起こり、否定派からは「きれいな長谷川豊」と言われ、その後すっかり話題に上らなくなってしまった。
 
 
自助を促す趣旨には賛同できるが、努力だけではどうしようもない部分まで含むスキームが悪かったのだろう。
 
このような健(検)診や健康管理に一生懸命取り組んでいる人への優遇は一見有効に見えるが、実際は限界がある。
 
事実、特定健診を受けない人は、高年齢、低学歴、低所得の人が多く、病気になったときのことまで考える余裕がない。
 
自己負担の減免の恩恵を受けられるのは結局のところ、普段からスポーツジムで汗を流して健康管理ができる富裕層ということになる。

 
 それでは、健(検)診を受けない健康意識の低い人たちを振り向かせるにはどうしたらよいのであろうか。
 
まずは、マイナンバーを活用し、健(検)診受診と判定結果による治療介入の有無をしっかり把握することである。
 
未受診者や要治療者にははがきによる個別勧奨を積極的に行う。
 
インセンティブには健康マイレージが良いだろう。
 
 NTTドコモでは自治体向けにスマホと歩数計、リストデバイスを用いてウオーキングや特定健診の受診、自らの健康管理の程度に応じてポイントがたまる健康マイレージサービスを行っている。
 
ポイントに応じて景品と交換できる仕組みである。
 
 宮崎県木城町は、国民健康保険と後期高齢者医療の被保険者を対象にした健康マイレージを行っている。
 
特定健診や各種がん検診などの受診でポイントがたまり、町内の登録店舗で利用できる商品券と交換できる。
 
町内経済の活性化も狙えて一石二鳥だ。
 
 貧富や教育などの社会的要因に対するアプローチも重要である。
 
例えば、タバコ代を上げると低所得者層ほど禁煙するというデータがある。
 
小中学生に対する予防医療教育も将来的な健康格差の縮小につながるだろう。
 
健(検)診を受診できる日を選択する機会を増やすことも有効だ。
 
福岡市健康づくりサポートセンターの健(検)診は、土曜、日曜、祝日にも実施している。
 
さらに、月に1度は平日の夜間にも実施しており、仕事帰りの利用にも対応している。
 
 がん検診の受診率上昇には韓国の政策が参考になる。
 
胃がんを例にとると、韓国の胃がんの検診受診率はなんと70%を超えているそうだ。
 
その要因は、住民登録番号を利用したデータ管理、保健所による個別受診勧奨、検診料は健康保険でカバーされ健康保険料下位50%は本人負担ゼロ、指定を受けた医療機関であれば全国どこでも受診可能、という徹底したものだ。
「県コバトン健康マイレージ」事業で使用する歩数計と読み取り機器=2017年4月4日、埼玉県(菅野真沙美撮影)
「県コバトン健康マイレージ」事業で使用する歩数計と読み取り機器=2017年4月4日、埼玉県(菅野真沙美撮影)
 さらに公的がん検診で発見されたがんには治療費の補助も行われる。
 
ここまでやるには予算もそれなりに必要だが、本気で受診率の上昇を目指すのであればこれくらいの対策が必要ということだ。
 
 麻生氏は冒頭の発言の際、予防医療の必要性についての理解も示したが、予防医療の推進は医療費削減どころか、さらにお金がかかることもある。
 
医療費の議論は別にして、健康長寿のための予防医療を効率的に推進する政策を期待したい。

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