人手不足、埋もれた社員の「企業間トレード」も特効薬になる

テーマ:人手不足「移民に頼らない」妙案がある。

世の中、どこも人手が足りないらしい。少子高齢化と人口減少が進むわが国にとって、深刻な事態である。その解決策の一手として外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正の議論も始まった。とはいえ、昨今の人手不足感、どこまで本当なのか。すべてを疑って、一から考えてみよう。

 

人手不足、埋もれた社員の「企業間トレード」も特効薬になる

『田岡春幸』 2018/11/14

田岡春幸(労働問題コンサルタント、元厚生労働官僚)
 
 厚生労働省によると、2018年9月の有効求人倍率は1・64倍となった。
 
1974年1月(1・64倍)以来の高水準で、人手不足感が強い状況が続いている。
 
一方、今まで働いていなかった人の就労も進み、総務省が同日発表した9月の完全失業率は改善し2・3%だった。
 
要は就職しやすい売り手市場になっているのだ。
 
 ただ、これに伴い、企業側もしっかり調べず安易に人材を採用し、かえって採用基準が下がる恐れもある。
 
いわゆる「ブラック社員」のことだが、最近はこうした問題社員を採用するケースが増えている。
 
言うまでもなく、これは企業にとって大きなリスクであり、人手不足になっても安易な採用は控えるべきである。
 
 採用できる企業はまだいいが、近年、人手不足に伴う倒産も増加している。
 
人手不足は残業増加を生み、企業そのものも「ブラック企業」化する。
 
実際、現状のブラック企業は、人手不足が一因になっていることもある。
 
これも企業評価にかかわり、日本経済停滞の一因になり得る。
 
 こうした現状の解決策として、今臨時国会で議論されているのが、外国人労働者の受け入れ拡大である。
 
外国人労働者数は、2017年10月時点の厚労省の調査によると、127万人である。
 
 「出入国管理及び難民認定法」(入管法)改正と「技能実習法」改正による人手不足が深刻な建設や農業、介護など14業種での受け入れが検討されている。
 
これらの業界の特徴は、劣悪な労働条件の企業が多いとされる。
 
 ここで改正案を確認しておこう。
 
改正案は、就労目的の在留資格「特定技能」を2段階で設ける。
 
一定の技能が必要な「特定技能1号」は、最長5年の技能実習を終了するか、技能試験と日本語試験の合格を条件とする。
 
在留期間は通算5年で家族の帯同は認めない。
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 さらに高度な試験に合格し、熟練の技術を持つ外国人は「特定技能2号」の資格を得られる。
 
配偶者と子供の帯同を認め、更新時の審査など条件を満たせば永住への道も開ける。
 
両資格とも同じ分野であれば転職も可能となる。
 
 受け入れは、日本人と同等以上の報酬を支払うなど雇用契約で一定の基準を満たすことを条件とする。
 
直接雇用が原則だが、分野によっては派遣も認めるため、派遣法で禁止されている分野との整合性を図る必要が出てくる。
 
 そもそも、技能実習制度の目的・趣旨は、わが国で培われた技能、技術又は知識の開発途上地域などへの移転を図り、当該開発途上地域の経済発展を担う「人づくり」に寄与することである。
 
 だが、実質的には日本の人手不足を補う低賃金の労働者拡充が目的になる可能性が高く、こうした現状でよいはずがない。
 
本来ならば、高度な人材が日本に来て働き、税金を納めてくれるような制度設計にすべきである。
 
そのためには、まず入り口でどのような外国人労働者が日本にとって必要か明確にしておくべきだ。
 技能実習法では「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(第3条第2項)と定めている。
 
だが、政府は人手不足の状況に応じて外国人の受け入れ人数を調節するとしており、原則外国人を雇用の調整弁にすることは法の趣旨にそぐわない。
 
 一方、外国人労働者の雇用拡大をめぐっては、「雇用が不安定になった場合に治安が悪化しないか」「国内の労働者の給与低下や待遇悪化につながりかねない」との懸念もある。
 
 
外国人労働者の拡大は、90年代後半から2000年代初頭の欧州がとってきた政策である。
 
この結果、欧州はどうなったか。
 
自国の若者の失業率が増え、治安が悪化し、ここ1、2年の間、欧州はそれを見直そうとする動きが出てきている。
 
この例を見ると明らかに、治安の悪化と日本人の雇用への影響は避けられないだろう。

 
 そもそも、外国人労働者を多数受け入れるとしても、社会保障などの整備といった問題が山積である。
 
本来、社会保障は当該国家との相互制度が基本だが、日本は厚労省の通達があるにもかかわらず、外国人にも生活保護が認められるケースがある。
 
 低賃金の外国人の流入はこの生活保護の問題と密接なかかわりを持ってくるだけに、早急な対応が求められる。
 
困窮した外国人が在留期限を過ぎても居座り、生活保護を受けるということは大いに考えられる。
 
また、不法滞在になった者が日本人と結婚して在留資格を得てしまうこともある。
 
 さらに、健康保険制度との密接なかかわりもある。
 
日本人には皆保険制度を維持し、外国人には審査の上、保険を適用することも考える必要がある。
 
子弟の就学や医療などを含め、生活支援策も必要になる。
 
これを日本の納税者が賄うのは考えものだ。
 
 また、外国人労働者によって、日本の技術流出が起こることも十分考えられる。
 
そして、一人でも加入できるユニオンなどの労働組合とともに、不当な要求などが相次げば、企業存続の根幹を揺るがしかねない。
 
実際、建設現場で働いている外国人労働者を勧誘しているユニオンが既に存在しており、こうしたリスクを回避すべく体制を担保してから慎重に進めるべきであろう。
 
 では、外国人活用以外の策はないのだろうか。
 
まず、企業の残業ありきの人員資本政策を見直す必要がある。
 
どこもギリギリで人員を考えているので、いざという時に対応できない。
 
ゆえに、人手不足は企業単位でなく、業界全体で取り組むべきだ。
 
 人手不足の業界は、労働条件が悪いことが根底にあるだけに、業界全体で労働条件の向上や働きやすい職場作りを進めていく必要がある。
 
業界全体で慣行や構造の転換を図り、業界内で横のつながりを持ち、場合によっては「人材の貸し借り」という経営判断があっても良いのではないか。
 
 また、雇用の流動化の観点から、一つの職場に縛り付けておくのではなく、企業から見れば解雇しやすい、労働者から見れば転職しやすい制度を構築すべきである。
 
要は、過去の労働判例から確立された4つの要件である「整理解雇4要件」
 
(①人員整理の必要性 ②解雇回避努力義務の履行 ③被解雇者選定の合理性 ④解雇手続の妥当性)の見直しを急ぐべきだ。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 これにより、ある企業では埋もれた人材が、他企業に転職した場合、活躍する事例(プロ野球のトライアウトやトレードによる選手の入れ替え)も増えていくのではないだろうか。
 
そのためには「解雇」=「悪」=「クビ切り」=「無能」といったレッテルを変えていくことが重要であり、企業間同士の人材交流を積極的に行っていくべきである。
 
 人手不足は、日本の根幹を揺るがす喫緊の課題であることに間違いない。
 
それだけに官民の力を合わせての対策が求められる。
 
ただ単に外国人労働者の受け入れ拡大ではなく、様々な政策パッケージを行ってほしい。
 
外国人雇用政策はあくまでも、人手不足の特効薬であるとの認識を持つべきである。

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