労働人口は過去最大なのに「人手不足感」が広がるナゾ

テーマ:人手不足「移民に頼らない」妙案がある。

世の中、どこも人手が足りないらしい。少子高齢化と人口減少が進むわが国にとって、深刻な事態である。その解決策の一手として外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正の議論も始まった。とはいえ、昨今の人手不足感、どこまで本当なのか。すべてを疑って、一から考えてみよう。

 

労働人口は過去最大なのに「人手不足感」が広がるナゾ

『黒葛原歩』 2018/11/14

黒葛原歩(弁護士)
 
 人手不足と言われて久しい。
 
日本は既に人口減少社会となっているので、そう言われるのも無理からぬことかもしれない。
 
大卒求人倍率は2倍近くに上り、求人誌には大量の募集が並ぶ。
 
新聞を読めば、人手不足解消のための外国人材受け入れの記事が毎日のように紙面を賑(にぎ)わせているが、氷河期世代のど真ん中、昭和52年生まれの私からすれば、もはや異次元・別世界の風景である。
 
 ここでは、労働力に関する統計数値を参照しながら、日本の人手不足が、具体的にどのような形で生じているのか、解説してみたい。
 
 まず、日本の労働力人口(15歳以上人口のうち、労働の意思と能力をもつ人の数)の推移を見てみよう。
 
参照しているのは、平成29年労働力調査(総務省統計局)のデータである。
 
 意外なことに日本の労働力人口は、実は減っていない。
 
いや、減っていないどころか、史上最大と言っても過言ではないほどに増えている。
 
 労働力人口は、平成年間に入った平成元年には約6200万人であった。
 
ちょうどバブルの絶頂期のことである。
 
その後平成9年~10年にかけて約6800万人に達しピークを迎えた。
 
その後は微減が続き、平成24年には6565万人と、いったん底を打っている。
 
 ところが、そこから再び増加に転じて、以後一貫して増え続けており、平成30年9月にはなんと6877万人に至った。
 
これは昭和28年以降の労働力調査の統計史上、最大の数値である。
 
 このような状態となった要因は、「シニア」(高齢者)と「女性」の労働者数の増加である。
※画像はイメージです(GettyImages)
※画像はイメージです(GettyImages)
 まず、「シニア」について、細かく統計を読み解いてみよう。
 
65歳以上の高齢者の労働力人口は、平成24年には約610万人にとどまっていたが、平成29年には822万人にまで増えており、5年間で200万人以上という爆発的な増加を示している。
 
 日本における健康寿命(介護等を受けず日常生活を送れる期間)は男性72・14歳、女性74・79歳と、国際的にも極めて高い水準にあり、
 
日本の労働者は「高齢になっても健康である」という社会背景の下で、高齢期に入った後も長期間にわたり働き続けようとする傾向が見られる。
 
 また、「女性」についてみると、女性の労働力人口は、平成24年には2769万人だったが、平成29年には2937万人となっており、この5年間で約170万人増加している。
 
この要因としては、待機児童対策の進展や、女性の未婚化・晩婚化といったことを指摘することができる。
 
 このように、幾つかの社会要因が重なり、今や日本の労働力人口は統計史上最高レベルである。
 
この統計数値をそのまま見れば、人手不足という現状認識そのものにクエスチョンを付けざるを得ない。
 
それなのに冒頭で述べたように、世間では人手不足と言われている。
 
なぜなのか。
 
 
その謎を解くカギは、労働力の内訳にある。
 
改めて、労働力調査の数値を細かく読み解いてみよう。
 
ここでのポイントは「世代」と「職種」である。

 
 全体の労働力人口は確かに大幅に増加している。
 
しかし、その中において、顕著な減少を示している部分がある。
 
それは、35~44歳の労働力人口である。
 
この世代の労働力人口は、平成23年に1582万人となって以降、人口減少そのものの影響を強く受けて、じわじわ減り続けている。
 
 平成29年におけるこの世代の労働力人口は1497万人であり、6年で100万人近く減っている(ちなみに、その下の25~34歳の労働力人口も減り続けている)。
 
この傾向は人口減少の影響なので今後も止めようがない。
 
 この世代はいわば「働き盛り」の年代で、さまざまな労働の現場で中核となることが期待される層である。
 
この世代の労働力が減少するということは、「体力と一定の経験を兼ね備えた中堅のスペシャリスト」がいなくなることを意味する。
 
 しかも、現在のこの世代は、平成10年代初頭の「就職氷河期」の影響をまともに受けている人が多く、経験値の高い人材の絶対数はより少ない。
 
結果として、こうした人材は不足することになる。
 
 また、職種による差も大きい。
 
先に述べたように、日本の労働力人口増の要因となっているのは、高齢労働者と女性労働者の増加である。
 
この層の労働者に若年・中年の男性労働者ほどの体力はないから、いわゆる現場系の仕事を全面的に代替することは難しい。
 
ハローワークの統計(平成30年9月)によると、現在有効求人倍率が極めて高いのは「保安」(8・65倍)、「建設・採掘」(4・99倍)、「サービス」(3・56倍)といった職種である
 
「事務的職業」の有効求人倍率が0・49倍と、人余りの状況を呈していることと比べると、非常に対照的である。
※画像はイメージです(GettyImages)
※画像はイメージです(GettyImages)
 このように、労働力人口自体は増えているが、職種によって、求める人材像と大きなギャップが生じており、そのことが「人手不足感」をもたらしていることが分かる。
 
 では、こうした状況にどのように対応すれば良いのか。
 
 国全体として労働力そのものは増えているというのであれば、人手不足の職種への移動を促すというのが、望ましい方法ということになるだろう。
 
近年、増加傾向にある労働者層の多くは非正規労働者なので、もともと流動性が高いといえる。
 
 
とはいえ、人手不足の職種には、やはりそうであるだけの理由がある。
 
仕事が複雑多岐で覚えにくい、体力的について行けない、仕事をする上で何らかの資格が必要―などといったものだ。

 
 このようなギャップをなくすための工夫が必要である。
 
業務の簡素化やIT化を進めることで、非熟練の人材でも新たに入りやすい職場の形成が求められよう。
 
高負担の業務を見直してワークシェアリング(仕事の分割・分かち合い)を推進することも必要である。
 
 もし、会社内で仕事や負担が集中してしまっている人がいたら、その仕事の中身を分析して、他の人で代われそうな部分を抽出し分業を推進するべきだ。
 
会社の中心としてバリバリ働くのは難しくても、その手伝いだったらできるという労働者は多い。
 
こういった分業の工夫は過重労働の防止になるし、高齢労働者などの活躍の場を増やす上でも有意義である。
 
 また、職場内でのスキルアップ・キャリアアップの機会を増やし、事業者自らが求めているような人材を育成することも期待されよう。
 
非正規労働者を正規に転換するのは、立派な「人手不足対策」である。
 
そこで、平成24年に改正された労働契約法では「5年無期転換ルール」が定められた。
 
これは、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者側からの申し込みにより、無期雇用に転換できるというものである。
 
 また、派遣社員の雇用を安定させるために平成27年に労働者派遣法が改正され、いわゆる「3年ルール」が定められた。
 
派遣社員は同一部署で働く期間を一律「3年」と定められ、それ以降は派遣元の派遣会社は派遣先に対してその派遣社員の直接雇用を依頼するなど、
 
派遣社員の雇用を安定化させる措置を採らなければならない。
 
 そもそもこれらの有期雇用の無期転換や、派遣社員の直接雇用というのは、スキルアップや人材育成の実現を意図して導入された制度である。
 
非正規であっても5年や3年という長期間にわたり同じ仕事を続けていたのであれば、きっと仕事の現場において不可欠な存在になっているだろう。
 
だからこそ、その実態と整合するように無期雇用・直接雇用に転換してもらおうということで、こういう制度を作ったのである。
 
 しかし残念なことに、実際には規制逃れの事例が少なくない。
 
無期雇用や直接雇用を期待できるかと思いきや、期限を前に契約終了を言い渡される人が少なくない。
 
人手不足が叫ばれるこの世の中において再び「派遣切り」ともいえるような状況が起こっているとは、いかにも不条理なことである。
厳しい雇用環境の中、ハローワークで職を探す求職者=2009年2月、大阪市港区のハローワーク大阪西(桐山弘太撮影))
厳しい雇用環境の中、ハローワークで職を探す求職者=2009年2月、大阪市港区のハローワーク大阪西(桐山弘太撮影))
 有期契約社員や派遣社員の代わりはいくらでもいると思われているのかもしれないが、一つの職場で経験を積み技能を蓄積した従業員の代えはそう簡単に効くものではないし、
 
何でもやってくれる優秀な正社員はそんなに簡単に採用できない。
 
 安易な有期の雇い止めや派遣切りに走る前に、一度立ち止まって「この人材は、本当は会社に必要なのではないか」と冷静に考える姿勢を求めたいところである。

 

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