「労働生産性はゼロ成長」人手不足、解決のヒントはここにある。

テーマ:人手不足「移民に頼らない」妙案がある。

世の中、どこも人手が足りないらしい。少子高齢化と人口減少が進むわが国にとって、深刻な事態である。その解決策の一手として外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正の議論も始まった。とはいえ、昨今の人手不足感、どこまで本当なのか。すべてを疑って、一から考えてみよう。

 

「労働生産性はゼロ成長」人手不足、解決のヒントはここにある

 2018/11/14            

斎藤満(エコノミスト)
 中小企業の中には人手不足のために経営が立ち行かなくなるところも増えていると言います。
 
日銀の調査(「日銀短観」など)をみても、中小企業を中心に企業の人手不足感が高まり、バブル期のピークに迫っています。
 
そして、建設現場や介護施設などでは外国人労働力への依存が高まり、政府も産業界の要請を受けて、外国人労働の受け入れに前向きとなり、法整備も進もうとしています。
 
 この間、企業の利益は最高益を更新するほど好調で、厚生労働省の調査では、
この夏のボーナスは前年比4・7%増と、27年ぶりの高い伸びとなりました。
 
ところが、その割に労働者の賃金はあまり上がらず、春闘賃上げも、いわゆる定期昇給分を除くと0・3%から0・5%の低い伸びにとどまっています。
 
このため、個人消費は低迷を続け、企業の値上げが通りにくく、インフレ率も1%以下の低い状況が続いています。
 
 これだけ人手不足が言われ、企業収益が好調にもかかわらず、なぜ賃金が増えないのか。
 
人手不足と低賃金の両方をもたらしている意外な原因が「低い労働生産性の伸び」にあると考えられます。
 
 まずは数字を見ていただきましょう。「日本株式会社」の利益総体ともいえる名目国内総生産(GDP)ですが、昨年(2017)度1年間で548・6兆円産み出されました。
 
その年度末にあたる18年3月の就業者数は6694万人でした。
 
つまり、この会社では就業者1人当たり819・5万円を産み出していたことになります。
 
 同様に、2016年度では6502万人の就業者で539・4兆円のGDPを産出し、1人当たりでは829・6万円を稼ぎ出していました。
 
ちなみに、2010年度は6288万人で499・3兆円を、2005年度では6374万人で525・7兆円を、2000年度では6445万人で528・5兆円を産出していました。
 
1人当たりではそれぞれ794万円、824万円、820万円となります。
 
 これらの数字の中に、問題の答えが潜んでいます。
 
中でも最も重要な数字は就業者1人当たりの生産額、つまり労働生産性が上がっていないことです。
 
リーマン危機後の経済の大きな落ち込みを見た直後の2010年から比べても、1人当たりの生産額は7年間で3・2%、年率換算すると年平均0・4%の上昇にとどまっています。
 
2000年からの17年間では生産性はゼロ成長です。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
 1人当たりの生産がどんどん増えれば、つまり労働生産性の上昇率が高ければ、売り上げや生産の増加計画の下でも人手を増やす必要はありません。
 
しかし、労働生産性が上がらないとすれば、企業は売り上げや生産を増やそうと思うと、それだけ人を増やさねばならなくなり、生産年齢人口が減少する中でこれが続くと、人手不足をもたらします。
 
 つまり、最近の人手不足をもたらした原因の一つが、労働生産性が上がらないという事実にあります。
 
15歳から64歳の「生産年齢人口」が減っているので、人手不足はやむを得ない問題ととらえがちですが、人為的な面も少なくありません。
 
そればかりか、労働生産性が上がらないことが、同時に賃金上昇を低く抑えざるを得ない原因にもなっています。
 
 
従業員の賃金上昇は、原則労働生産性上昇の範囲内で行われます。
 
つまり、労働生産性が2%上昇すれば、2%の賃上げが可能になり、その賃上げは企業のコスト負担にはなりません。
 
賃金上昇率から生産性上昇率を差し引いたものを「単位労働コスト」といい、これが上昇すると、その分を製品価格、サービス価格に転嫁するか、転嫁しなければ企業の収益が減ることになります。

 
 政府の要請に応えて賃上げをしても、それが生産性上昇分を超えてしまうと、価格転嫁するか企業収益の悪化になるかどちらかとなります。
 
昨今の日本の消費市場は低迷が続いていることもあって、値上げをした企業が苦戦を強いられるケースが少なくなく、むしろ流通業界の中にはあえて価格を引き下げて顧客を確保しようとするところも少なくありません。
 
 かといって、賃上げをして企業収益が減れば、株式市場からしっぺ返しを受けます。
 
企業としては、生産性が上がらなければ、賃金も引き上げられないことになり、その生産性がこの20年でほとんど上がっていないので、継続的な賃上げはできないことになります。
 
従って、企業収益が大きく拡大したときには、ボーナスで一時的に労働者に還元するのがせいぜいとなります。
 
 また、産業界は政府に働きかけて、必要な時に必要なだけの雇用を確保できる雇用体制を作り、低賃金でかつ社会保険料負担のない「非正規雇用」を使えるようにしました。
 
2017年にはこの非正規雇用が全体の約4割を占めるに至りました。
 
税務統計によると、2017年の正規雇用の年収493・7万円に対して、非正規雇用は175・1万円と、正規雇用の3分の1強にとどまっています。
 
 社会保険料負担がないことを考えると、企業の人件費負担は、非正規雇用にシフトすると、3分の1以下に抑えられます。
 
これらを活用することで企業は生産性が上がらない中で人件費を抑えることが可能となり、その分値上げをしなくても済み、インフレ率が1%以下の低い水準を維持するとともに、人件費の抑制も利いて企業収益の拡大が可能となっています。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
 人件費を抑えている分、労働者側から見れば所得が増えず、しかも一方で税や社会保険料負担が増えているので、実際に消費に回せる購買力(可処分所得)はさらに圧迫され、消費が低迷を続ける原因となっています。
 
これらの原因が、いずれも労働生産性の伸び悩みからきていることになります。
 
 数字でもう一つ注目したいのは、2000年から2010年にかけては、少子高齢化、生産年齢人口の減少に伴って就業者数も減っていたのですが、その後は少しずつですが就業者数は増えています。
 
これは女性や高齢者が就業するようになり、彼らの「労働参加率」が高まったことと、外国人労働者が増えてきたことによると見られます。
 
そしてこうした「限界労働力」の増加が人件費を抑えるとともに、また生産性上昇を抑制している面も否めません。
 
 
このようにみると、人手不足、低賃金を解消する有力な方法が労働生産性の引き上げで、それを実現するために必要なのは、民間企業の設備投資拡大であり、研究開発投資の拡大となります。
 
産業ロボットや人工知能(AI)などを取り込んだ設備投資の拡大によって、省力化が進み、生産性が上がれば、従業員の給与引き上げも可能になり、人手不足と低賃金解決の「一石二鳥」です。

 
 その点、ただ設備を増やすだけでは、いずれ設備過剰となってストック調整を余儀なくされることがあるので、新技術につながるような研究開発投資が重要です。
 
日本は主要国に比べてこの分野での政府支援が遅れています。
 
官民協力して研究開発を進め、日本のアップル、グーグル誕生のタネをまきたいものです。
 
 このように、人手不足の原因として大きいのは、人口の減少というよりも企業の生産性努力が後退して効率が悪くなっていることが大きく、ここに対策を打つのが先決で、外国人労働力に頼るのは最後の最後で、限界的な対応策としてみる必要があります。
 
 欧米では移民難民問題で国が割れるなど、これが大きな問題になり、ドイツなど、政権を揺るがす状態にある国もあります。
 
米国でも中米からの難民キャラバンに対して、軍隊を用意してまで入国を阻止しようとするトランプ政権のやり方に賛否が分かれています。
 
 日本は地理的な特性もあって、ここまでは移民難民の問題はほとんど経験がなく、難民受け入れも主要国の中では非常に遅れているとの批判もあります。
 
それだけここまでは移民難民問題に慎重に対処してきた日本が、人手不足のために、こうした問題をスキップして外国人労働力の受け入れに急旋回しています。
 
 それも、熟練技能労働者のみならず、上司の指示に従って仕事ができる程度の未熟練労働も受け入れる方向で、最終的にどれくらいの規模になるのか、当局も十分把握していないまま、拙速で話が進んでいます。
 
人件費の安い非正規雇用の次は、やはり人件費の安い外国人の単純労働力を、という安易な動きとも言えなくもありません。
 
その結果として、移民を受け入れる判断をしたのと変わらなくなります。
 
 多民族同居に慣れていない国柄であるため、外国人は新大久保や群馬などに「外国人街」を作りがちで、必ずしも日本社会に十分溶け込んではいません。
 
 そんな中で、労働力として大規模な外国人を受け入れると、それが3年であれ5年であれ、家族も含めると大規模な外国人が日本社会に突然暮らすようになりますが、その社会インフラは整っていません。
 
5年過ぎたら追い返すのか、社会保障は日本人と同様に扱うのか、その負担はどうするのか。
 
まずは日本人が移民難民の受け入れをどう考えているのかも把握する必要があります。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
 その上で受け入れ態勢が整うまでは、外国人労働力の受け入れは十分慎重に、徐々に進める必要があります。
 
受け入れ態勢が整わないまま外国人を大量に受け入れ、彼らに不自由、不便な思いをさせ、社会と軋轢(あつれき)を起こすようなら、国際社会から日本の姿勢が非難され、国際的な信用を失います。

 人手不足問題に対しては、まず企業の研究開発、技術開発、設備投資による生産性向上努力に注力し、その間安心して子育て就労ができる体制を整え、結婚、出産しやすい環境を作るなど少子化に歯止めをかけるのが先で、
 
その間に外国人労働力、移民受け入れ態勢を法体系も含めて整備する必要があります。
 
それでも必要なら外国人労働に助けてもらう、というのが筋ではないでしょうか。
 

コメントを残す

サブコンテンツ

FC2ブログランキング

政治・経済ー政治

ブログの殿堂

ブログランキング

i2iアクセス解析

国税

my日本

i2iサイト内ランキング



合計累計カウンター


今日の合計


このページの先頭へ