第一次世界大戦が今の怪物を生んだ 京都大学名誉教授・中西輝政

≪100年後も多大な影響及ぼす≫

 この11月11日、世界は第一次大戦の終結からちょうど100年を迎えた。

この日の午前11時からパリの凱旋(がいせん)門前で開かれた式典には、80人以上の首脳や国際機関のトップが参加し、フランスのマクロン大統領をはじめドイツのメルケル首相、アメリカのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領などもこぞって顔をそろえた。

 日本ではいまだに「第一次大戦は主としてヨーロッパの戦争であり日本に深い関わりがあった戦争ではない」という誤った歴史認識が定着しているように思われる。

 しかし言うまでもなく、第二次大戦の原因をほんの少しばかり巨視的に見ると、第一次大戦を終わらせた講和条約(大戦終結の半年後に調印されたベルサイユ条約など)こそが、第二次大戦をもたらした直接の原因だったことがわかる。

それゆえベルサイユ会議は今も「(その後の)平和を終わらせた平和会議」(デビッド・フロムキン)と呼ばれている。

つまり、日本にとって「昭和の大戦」という悲劇に見舞われた世界史的な原因は、第一次大戦とまさに直結しているわけである。

 しかもその第一次大戦がその後の世界にもたらしたものが、100年後の今もなお多大の影響を及ぼし続けている。

それはロシア革命による共産主義国家の登場と、大英帝国の退場とともに浮上した「パクス・アメリカーナ」という世界新(無)秩序である。

 ≪「過失」から始まった20世紀≫

 もちろんアメリカは日本による真珠湾攻撃(1941年)までは完全な世界覇権国ではなかったし、共産主義の元祖国家としてのソ連は二十数年前に崩壊の憂き目を見ている。

しかし中国は今も共産主義体制をとり、しかも世界第2の経済超大国となってアメリカの覇権に挑戦しようとしている。

 歴史に「イフ」は許されないが、あえて言えばもしあの時、第一次世界大戦が起こらなかったら、ロシア革命は決して起こらず、ソ連はこの地上に誕生しなかったであろう(つまり、中国や北朝鮮が共産国家となることもなかったはず)。

同じように、ウィーン会議(ナポレオン戦争後の1814~15年にウィーンで開かれた講和会議)以来、文字通り「100年の平和」を享受していた当時のヨーロッパで、第一次大戦がもしあのタイミングで勃発するのを避けられていたら、イギリスの後を襲ってアメリカが覇権国として20世紀の世界をリードすることは、おそらくなかったであろう。

 大英帝国衰退の最大の原因は、何をおいても、第一次大戦による国力の根本活力の喪失であったからだ。

しかもその第一次大戦の勃発は、まさに「世界史の過失」としか表現できないような、そして今も歴史家たちが「夢遊病者たちが起こした戦争」(クリストファー・クラーク)と評するほど、全く訳のわからない原因によって起こった戦争だったのである。

それは平和がいかにつまらない理由で簡単に崩壊するか、ということをわれわれに教えている。

 そしてその戦争によって始まった20世紀の世界史は、動乱に次ぐ動乱、「戦争と革命の世紀」となったのである。

実際、この100年は、世界恐慌と第二次大戦そして冷戦、さらには数え切れないほど多くの地域紛争と民族対立が繰り返された100年となった。

 拙著『世界史の教訓』(育鵬社刊)でも詳細に叙述した通り、この100年はそれに先立つ19世紀の100年、つまり主要国間の大戦争が絶えて起こらなかった「世界史的平和」の100年と比べると、何という劇的なコントラストをなしていることか。

 ≪米中は最終戦争に突入するか≫

 しかも冷戦終結後も、湾岸戦争とその結果起こった「9・11」、さらに今も続く「テロ戦争」やアフガニスタン戦争、イラク戦争、シリア内戦など中東の秩序は混迷の極に達している。

また、チベットや新疆ウイグル自治区における中国の共産主義体制による人権抑圧は未曽有の規模となっている。

 第一次大戦が世界史の中に産み落とした2つの「怪物」、つまり中ソなどの共産主義体制と「パクス・アメリカーナ」が21世紀の今日も、なお世界史的な平和(パクス)を依然として「人類の夢」のままにしている。

そして今、この2つの「怪物」が決着をつける最終戦争へ向かいつつあるのか、と思わせるような米中2大超大国の対立が深刻化し始めたようにも見える。

 さきの大戦終結100年の式典でマクロン大統領は次のように演説した。

「第一次大戦後、われわれの先人たちは国際協調による平和を目指したが、復讐(ふくしゅう)心や経済危機がその後のナショナリズムと全体主義を生んでしまった」「自国の利益が第一で、他国のことなど構う必要はないというナショナリズムに陥るのは(歴史への)裏切りを意味する」

 確かにこのくだりにはマクロン流の理想主義やトランプ米大統領を意識した政治的なオーバー・トーンもあるが、同時に米中双方への世界史からの強力なメッセージでもあったように思うのである。(なかにし てるまさ)

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