裏切りの中国は恩に感謝しない 文化人類学者、静岡大学教授・楊海英

裏切りの中国は恩に感謝しない 文化人類学者、静岡大学教授・楊海英

 

先般、訪中した安倍晋三首相の最大の外交的成果は、北京当局に政府開発援助(ODA)の終了を伝えたことであろう。(総額7兆円)。

「中国は世界第2位の経済大国へと発展した。

日本の対中ODAは歴史的使命を終えた」と安倍首相が述べたのに対し、中国側は「日本も対中ODAプロジェクトを通じて利益を得た」と揶揄(やゆ)した。

中国の「恩知らず」には“前科”がある。

「同志で兄貴」のソ連からの援助についても見事に裏切ってきたのである。

日本のODAは党の金に化けた

 2004年12月、私は中国西北部の青海省のフフノール湖(青海)周辺で学術調査を進めていた。

湖の北に広がる金銀灘という草原に住むチベット人とモンゴル人の遊牧民社会に入ると、奇形児が生まれ、白血病が多いとの情報に接した。

原因は草原に造られた「221工廠」にあった。

 「221工廠」とは、1958年に設けられた中国最大の核実験研究所である。

無数の実験を経て、ついに64年に中国最初の原爆が成功し、ウイグル人の住む新疆東部で投下されたのである。

 「221工廠」が設置された後、住民のチベット人とモンゴル人は強制移住を命じられて他所で数十年間暮らした。

90年代に実験場の閉鎖に伴って故郷に帰還したが、そこは核汚染の深刻な土地と化していた。

 中国の国威発揚のために開発された原子爆弾によって酷(ひど)く汚染された草原に、被爆国、日本のODAは活用されていた。

在北京日本大使館の情報によると、2000年に金銀灘の「水利と民生環境の改善」に833万円が投入されていたという。

しかし、地元の遊牧民は日本からの善意ある資金については、何も知らなかった。

政府関係者は逆に共産党からの「救済基金」だとして、被爆者の少数民族に恩を売りつけていた。

 「汚染草原」から一刻も早く離れたがる地元共産党の幹部たちの日本製高級車に乗って湖近くの政府所在地に着くと、何とロシア風の豪邸が何棟も立ち並んでいた。

政権を握ったのはソ連のおかげ

 党幹部たちの話によると、かつてここに「ソ連人専門家」たちが住んでいたという。

24時間お湯が出て、専用のコックと家政婦が働いていた。

特権階級の「ソ連人専門家」たちは高級車で金銀灘の核実験場に向かうが、一般の労働者たちは目隠しされて、専用の列車で運ばれていたという。

 そもそも中国共産党が政権を獲得したのは、ソ連の「おかげ」である。

1945年8月以降に日本がアジア大陸の戦場から撤退すると、ソ連軍はいち早く延安を拠点とする共産党軍を満州(中国東北部)に招き入れた。

日本製の武器を共産党軍に渡したことで、彼らの戦闘力は瞬時に強まった。

 日本軍を苦手とし、ほとんど戦おうとしなかった共産党軍は同じ中国人の国民党軍が相手となると、めっぽう強かった。

武器弾薬だけでなく、48年12月までソ連は102人のエンジニアと技師、200人もの熟練労働者を満州に派遣してハルビンから大連に至る鉄道を修復し、共産党軍の展開を支えた。

ここから、国民党軍の敗退が始まり、49年10月の中華人民共和国の成立につながった。

 「ソ連人専門家」という言葉は先進的文化と技術、それに先駆的な社会主義制度の代名詞だった。

不完全な統計だが、56年末になると3113人もの「ソ連人専門家」たちが新生の中華人民共和国に派遣されて近代化を指導していた。

陸軍しか持たなかった人民解放軍の空軍と海軍もソ連の援助で編成されたし、59年だけでソ連の対中援助は国内総生産(GDP)の7%を占めていた。

「礼節の邦」と信じてはならない

 毛沢東は原子爆弾を「張り子の虎」と呼びながらも、ソ連に技術と資金の提供を複数回にわたって請うた。

ソ連は50人もの中国人核研究者を受け入れ、6つの協定に即して原爆の技術を毛沢東に提供し、ついに64年に「張り子の虎」の開発に成功した(沈志華『中蘇関係史綱』)。

 しかし、中国はソ連に感謝しなかった。

北京は官製メディアを動員して「ソ連が一方的に技術者を引き揚げ、中国の社会主義建設と発展を阻害した」と手のひらを返して批判した。

58年から人民公社の公有化政策で餓死者3千万人が出た原因も「ソ連による経済的封鎖」にある、と9編もの論文を書いてモスクワを罵倒した。

 中国はスケールの大きい大人(たいじん)の国で、贈答品をもらったらお礼を返すという儒教精神を持つ「礼節の邦」と信じ込んでいる人もいるかもしれないが、そうではない。

『論語』が説いているのも、人間はかくあるべきだとの理想像を描いているだけで、中国人が皆、君子だったという事実はない。

 ソ連の力で建国し、日本人の善意によって近代化が実現された中国の習近平国家主席も「日本の努力を評価する」とのコメントを発しただけである。

決して中国共産党の社会主義制度が、善良な中国人を贈答と返礼を知らない「人民」に改造したわけではない。

(文化人類学者、静岡大学教授・楊海英 よう かいえい)

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