青山繁晴手記「総理。足元の声をお聴きですか」

テーマ:「移民法案」このままで大丈夫か。
外国人労働者の受け入れ拡大を図る出入国管理法改正案が衆院を通過した。案はこれまで認めなかった単純労働を容認し、実質的に外国人の永住に道を開く内容である。事実上の「移民法案」とも揶揄され、将来に禍根を残しかねない。労働市場の人手不足が大義名分とはいえ、なぜ急ぐ必要があるのか。

青山繁晴手記「総理。足元の声をお聴きですか」

 
青山繁晴(参議院議員、作家)
 
 諫言(かんげん)などという格好の良いこと、偉そうなことは、できませぬ。
 
しかし、かりそめにも日本の唯一の主人公である有権者から負託されたからには、お聞きせざるを得ません。
 
 総理、どうなさいましたか、と。声をお聴きになっていますか、と。
 
 いや、安倍晋三総理も総理官邸の人々も、国民の声を聴いているおつもりなのだ。
 
 すなわち世論調査では、「モリカケ」という悪質な冤罪によって安倍総理を追い詰めたオールドメディアの行う世論調査であっても、最近では安倍政権の支持率は上がり、不支持率は下がっている。
 
いずれも振り幅は小さいが、ほぼすべての調査に共通する傾向だ。
 
 そして外国の国民を労働者として急に増やすこと、実質的に永住させることを盛り込んだ入管法(出入国管理・難民認定法)改正案も支持が不支持を上回っている。
 
さらに消費増税も支持が不支持を上回る傾向だ。
 
 安倍改造内閣の押し進める政策で、はっきり不支持が多いのは軽減税率やプレミアム付き商品券、ポイント還元制度といった分かりにくい増税対策だけである。
 
しかし消費増税そのものは「やむを得ない」と受け止める国民が多いことになっている。
 
 もちろん世論調査によって色合いは異なるが、なべて言えば、現在こうだ。
 
落とし穴の一つは、実に、ここにある。
 
 かつてはタウンミーティングのように国民の声を直接に聴く場も、ほんの少しはあった。
 
だがこれもやらせ疑惑が出るなどして中止。
 
長くても残り3年弱、来夏の国政選挙で敗北すれば短くてあと8カ月強の「最期の安倍政権」は世論調査しか、耳を持たないのだ。
2018年11月、参院予算委で答弁を行う安倍晋三首相(春名中撮影)
2018年11月、参院予算委で答弁を行う安倍晋三首相(春名中撮影)
 オールドメディアのそれ以外に、政府与党も長年のノウハウと蓄積データを持つ世論調査を非公開でやる。
 
こちらはオールドメディアほどには質問に仕掛けを作らないので、客観性は高い。
 
だがこの調査も結果は同じ傾向だ。
 
 そのために安倍総理には「保守色の強い支持層には入管法改正や消費増税が不評でも、広範な国民には支持がむしろ回復している」という安心感が生まれている。
 
さらに「これまでも保守政権だからこそやれるという不人気政策をあえて実行してきた。
 
路線が変わったわけじゃない」と政権みずから納得している。
 
 「何故妊婦をいじめるの」
 
だが世論調査は、特に安倍政権には間違いの元になる。
 
なぜか。再登板後の安倍政権は、歴代の自由民主党中心の歴代政権とはまったく違う特色を持つからだ。

 
 それは、選挙権を得たばかりの18歳や19歳に支持が高く、50代以上の世代にまったく人気が無いことだ。
 
 世論調査は、回答者が特定の世代に偏らないようノウハウを持って各世代に万遍なく電話で質問していく。
 
ところが法改正でせっかく有権者となった18歳、19歳はほとんど答えない。
 
この世代の回答率は何と、およそ1%である。
 
100人のうち1人答えるか答えないか。
 
したがって世論調査は、安倍政権の本来の支持層が「たった今の政策」をどう考えているかをほとんど反映しない。
 
一方、高齢世代は「日本はすべて悪かった」という教育を受けて育ち、インターネット上の情報の活用もまだまだ少ない。
 
この世代は安倍総理が日本の敗戦後の歩みを変えることを強く警戒してきたから「この頃の現実路線には安心感がある」(70代の元教員)となる。
 
 安倍総理はまずは、足元の党内の声を聴くべきではないか。
 
 例えば、参議院の厚生労働委員会である。
 
わたしはこの委員会に属していない。
 
しかし1回生議員として「雑巾がけ」を積極的にやると決めているから、出席できない議員の差し替えを務めていた。
 
すると野党議員が「妊婦加算」について「おかしいではないか」と問うた。
 
病院で妊婦と分かれば治療費を余計に払えという制度が4月から始まっている。
 
わたしの周りの自由民主党席には医師でもある女性議員が複数いる。
 
その議員らから「人手が足りないから無理にでも外国人を入れようとしているのに、なぜ妊婦を苛(いじ)めるの」という秘めた声が幾つも聞こえた。
 
 わたしは議事の邪魔にならないよう他には聞こえない声で「レントゲン一つとっても医師の負担増は分かりますよね。
 
しかしそれは妊婦ではなく国が負担すべきです。
 
人手不足は人口減で起きているのだから、妊婦こそ国の宝ですね」と応じた。
 
そして野党議員が質問を終えるとき、男女を問わず自由民主党席から自然に大きな拍手が起きた。
 
 この厚労委では、水道法改正案の趣旨説明も行われた。
 
水道事業がこれも人口減で行き詰まりを見せ、老朽化した施設を更新できないでいる。
 
だから自治体が水道の運営権を民間に売れるようにする法改正で、すでに前国会で衆院を通過している。
 
この運営権にフランスの水メジャーと中国が強い関心を持っているとされるが、命の水、ことに日本は水の邦(くに)でもある。
 
少なくとも外資規制を掛けるべきだ。
青山繁晴参院議員=2018年9月(仲道裕司撮影)
青山繁晴参院議員=2018年9月(仲道裕司撮影)
 厚労委で自由民主党のあるベテラン議員は、わたしに「安倍総理は何を考えている。
 
水道法も妊婦加算も入管法改正も人口減への対処が間違ってるよ」と小声で言い、「(自由民主党本部で開かれた)法務部会で青山さんがずっと入管法改正に反対していたあの主張、全く正しいよ。
 
俺(おれ)は立場上、言えないけどね。地元でもみな、そう言っているよ。
 
このままじゃ選挙に負ける。頑張ってほしい」とわたしの眼を覗き込んだ。
 
 その法務部会では、「業界から頼まれてきた。早く外国人が欲しい」と正直に、あるいは露骨に発言した議員もいらっしゃった。
 
ある意味、ミッション(使命、作戦)を帯びた反対論潰しの試みがあったわけだ。
 
ところが部会の外では閣僚経験者や党の重鎮までが党本部のエレベーターや国会議事堂の廊下で「入管法改正反対は正しい。
 
主張を続けてください」と仰る。「反対論はおかしい」という声は部会の外では、皆無だ。
 
 「総理の真意はどこに」
 
おのれに都合のいい声だけを取り上げているのではない。

 
 例えば、選挙の足腰を支える地方の女性党員はどうか。
 
わたしは今、党女性局の史上初の男性事務局長を務めている。
 
配偶者が日本女性で初めて大型船の船長資格を取り、現在も研究調査船に乗船してメタンハイドレートや熱水鉱床といった日本が建国以来初めて抱擁する自前資源の探索にあたり、彼女が幼い子二人を残して遠洋航海に出た時は、忙しい政治記者だったわたしが子育てをした、そんな事実が影響しているのかもしれない。
 
 その女性局事務局長の務めとして参加した地方のブロック会議で、公式会議が終わると地方議員の女性が複数、寄ってこられ「妊婦に金銭負担やストレスを与え、何より大事な水を売り渡し、
 
日本の女性や中高齢者を雇わずに外国人を、総理が国会で答弁なさっていることと違って、実際には多くは低賃金で雇う。
 
総理はいったい何なの。これで来年、選挙をやれと言うの」とわたしに厳しく問うた。
 
 では総理の真意はどこにあるのか。
 
 再登板後の安倍総理は現実主義者である。
 
不肖わたしも長年、安全保障・危機管理を民間から担う実務者であったから、現実を常に見ている。
 
ところがお話ししていると総理には、はっとさせられるほどリアルな現実把握、みごとな現実認識がある。
 
 安倍総理がたった今、冷徹に把握している現実は、後継者がいない事実だ。
 
日韓合意以来、わたしと安倍総理は意見の違うことばかりだが「安倍総理の後継総理は国家観、歴史観が共通する人でないと、苦闘の果てに積み上げてきた平和安全法制や特定秘密保護法という敗戦後の日本の在り方見直しが無に帰する怖れがある」という認識では一致している。
 
 だから総理は今、「一定の仕上げを自分でやっておかないと」という危機意識でいっぱいだ。
 
そのために「人手不足倒産をとりあえず解消しないとアベノミクスが続かない。
 
水道をはじめインフラの更新をとりあえずできるようにしないといけない」となる。
 
 前者には「最大でも35万人の外国人だから、あくまで労働者だ。移民じゃない」、後者には「水道の管理責任はあくまで公(おおやけ)、自治体にある」という自己弁明が付く。
 
そして妊婦加算は、国会で答弁を求められるまではおそらくあまりご存じなかった。
 
 これらは不肖わたしの推測だが、もとより単なる推測ではない。
 
総理側と交渉をするなかで明瞭に伝わってきた総理の真意である。
 
 わたしは一回生議員に過ぎない。
 
入管法改正の廃案を叫び、ただ反対するだけなら一回生議員にもできる。
 
だが叫ぶだけだ。おのれの支持者の喝采を待ち、結果には責任を持たない、一つの保身である。
 
 「内政だけでもズレがある」
 
まだ後輩議員もいない身も顧みず、やらねばならないのは政府原案修正の実現だ。
 
入管法改正案はこのままでは、ぼくらの祖国を見知らぬ国にしてしまう。
 
日本国民の中高齢者、女性、そして引き籠もりや鬱によって就職できずにいた若者の就労を実現する、あるいは外国の国民が日本の社会保障を悪用しないと同時に、日本国民と同じ人権が守られる。
 
そのための法案修正に与野党が合意するよう、勝手に、非力のまま水面下で動いている。

 
 そのとき、もっともしっかり確認しておかねばならないのが総理の意思だ。
 
 修正は議員間で行われる。
 
しかし特定秘密保護法も、安倍総理と渡辺喜美・みんなの党代表(当時)の秘密合意があったから、議員間修正が実現した。
 
入管法改正についても「修正OK」という総理の意志が背景にないと修正が進まない。
 
それを確かめる過程で、わたしなりに総理の危機意識を把握したのだった。
 
 その危機感を知りつつ、あえて総理にお尋ねしたい。
 
長年、選挙への出馬要請を断ってきたわたしがついに決断したのは、西暦2016年6月の参院選公示が迫るなか、突然に掛かってきた総理からの電話がきっかけだった。
 
 「青山さんが国会に来れば、外務省が変わる。あと経産省も変わるな。
 
それから部会で発言すれば自民党の議員も変わる」。
 
これは順に、拉致被害者帰還交渉の難渋、メタンハイドレートをはじめ自前資源の意図的な放置、党の利権構造、それらを変えたいという安倍晋三総理の強い願いの表れであり、現場で協力してほしいという要請に他ならなかった。
 
 総理は忙しさでお忘れかもしれないが、これほど印象深い電話も、半生にない。
 
記憶はまことに鮮明だ。
 
そして法務部会で熱心にわたしの反対を聞いてくれた自由民主党代議士のひとり、行政経験の豊かな神谷昇・元泉大津市長は、わたしが講演でこのエピソードを話したとき、「変わった、変わった。確かに議員が変わった」と明るい声で叫ばれた。
 
 総理、まずは足元の党内の声を聴き、それぞれの地元の有権者の声を集めることを急ぎ、なさってくださいませんか。
 
それ無しでは、来年、仮に衆参ダブル選挙に打って出ても、野党の選挙協力の成否にかかわらず大敗し、政権を失いかねません。
ロシアのプーチン大統領と会談後、取材に応じる安倍首相=2018年11月、シンガポール(共同)
ロシアのプーチン大統領と会談後、取材に応じる安倍首相=2018年11月、シンガポール(共同)
 本稿では訪中、北方領土交渉という最近の安倍外交には、字数の制約もあり、あえて言及しなかった。
 
だが内政だけでこれだけの足元の声とのズレがある。
 
改憲と拉致被害者の全員救出、この再登板後の安倍政権の本来の目的のためにも、ここではわたしが僭越ながら、こころの電話をお掛けします。
 
「批判されても仕上げを急ぎたい真意を受け止めたうえで、総理、日本を取り戻すためという再登板の志に戻りましょう」と。

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