政府が検討する「水道事業」民営化の不安定要素

政府が検討する「水道事業」民営化の不安要素

2018.09.30 07:00

 福岡県のある町では水道料金が月額4370円(2015年)から2万2239円(2040年)になる──というショッキングなデータが公表されている。

これは「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(改訂版)」という資料の一部だ(EY新日本有限責任監査法人 水の安全保障戦略機構事務局による)。

 設備の老朽化と人口減少に伴い、日本の水道インフラを巡る状況はかなり深刻な状況にあり、対応によっては早晩破綻することを政府も重々認識している。

 実際、水道料金は年々上がり続け、日本水道協会によると、料金値上げに踏み切った自治体はこの1年で47にのぼる。

また、自治体ごとの料金格差も大きく、月額約6000円、年額にして7万2000円近くの金額差が生じている。

 データによると、2040年までに料金値上げが必要な自治体は全体の90%。

そして、それらのうち、約4割は30%以上の値上げを余儀なくされる。

自治体間の料金格差はさらに広がり、高額地域と少額地域の格差は19.6倍にまで広がる、とされている。

 こうしたデータは政府も当然意識し、値上げが社会に及ぼす影響についておおいに憂慮している。

そこで打ち出されたのが「民営化」だ。

 2013年4月に麻生太郎副総理が「世界中ほとんどの国で民間会社が水道事業を運営しているが、日本では国営もしくは市営・町営である。これらを民営化したい」という主旨の発言をしている。

そして、実は、7月下旬に閉幕した国会には既に「水道法改正案」が提出され、審議されていた。

 この法案は「公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入する」ことを謳っており、「施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する」としている。

民間企業がいきなり施設を運営するわけではないが、いずれはそれを目指しており、電気事業や鉄道事業などと同様に政府が手を放そうとしているのは明らかだ。

「この夏は、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など日本各地が天災に見舞われ、水道を巡る事故が多発した。そうした中、いずれ値上げされることを含みにした改正案を通すと世間の反発を招く、と政府が判断し、今国会では成立が見送られましたが、次期以降、改正案は確実に蒸し返されることになるでしょう」(全国紙記者)

◆海外ではことごとく失敗に終わった

 実際、水道事業が民営化されると何が起こるのか。

アクアスフィア・水教育研究所代表で水ジャーナリストの橋本淳司さんが言う。

「民間企業による運営によって情報が見えにくくなることが予想されます。

公営ならば、何にどのようにお金が使われたかを公開しなければなりませんが、民間企業には情報開示の義務はないため、事業の内訳が不透明になります」

 不適切な料金値上げが起こる可能性もある。

「民間企業は当然ながら利益を上げなければなりませんから、自社の論理で値上げをするかもしれない。

例えば、災害に備えるリスクマネジメント代といった名目で料金を上げるかもしれません。

また、民間企業には倒産の可能性もありますが、その場合、水道事業を誰が運営していくのか。

さらには、災害などの有事の際、事業体制がどうなるのか、といった問題も残ります」(橋本さん)

 海外に目を向けてみると、過去、フランスのパリ、ドイツのベルリン、アメリカのアトランタ等々で水道事業の民営化は行われた。

しかし、民営化はことごとく失敗に終わった。

民営化したものの公営に戻した事例は、2000~2015年で180事例に上る。

 その主な要因は「料金の大幅な値上がり」と「情報の不透明化」にある。

例えば、パリでは、25年間の契約で民間企業が事業に携わったが、その間、水道料金は174%増となった。

事業者は営業利益を7%と公表していたが、実際は15~20%の利益を出しており、過少報告が長年なされていた。

不透明な経営が市民の不信を招き、事業継続は困難となった。

 事業者の不振は多くの都市で起きており、利益優先の企業が投資を渋って水道管の補修を怠るようなケースもあった。

運営コストと資材の値上げを巡って紛争が起こったり、雇用カットによるサービスの質の低下も各地で見られた。

「今回、政府が改正案で推進しているのはコンセッション方式と呼ばれるものですが、事業運営権が民間企業に譲渡される可能性が含まれていることが問題だと思います。

民間企業は利益を上げやすい大都市圏の水道事業にしか関心を示さず、利益の出にくい、地方の小さな自治体が取り残されてしまう可能性もあります。

 料金に関していえば、現状の水道事業を維持するとなれば料金は必ず上がる。

水質維持を考えても、料金値上げはやむを得ないと思います。

ですので、単に値上げに反対するのではなく、自分の住む地域が水道事業でどんな取り組みをしていて、何にどうお金を使っているのかをふだんから意識し、知っておくことが大切だと思います」(橋本さん)

※女性セブン2018年10月11日号

 

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