レーダー照射、韓国に道理を説いても無駄である

レーダー照射、韓国に道理を説いても無駄である

潮匡人(評論家)
 
 2018年12月26日、北朝鮮の開城(ケソン)工業団地近郊の駅で、鉄道と道路の連結に向けた着工式が実施された。
 
同年9月の南北首脳会談で合意された韓国と北朝鮮をつなぐ鉄道と道路の連結である。
 
式には、南北閣僚らに加え、中露の政府高官や国連の幹部らも出席した。
 
アメリカが対北制裁を強化する中、国連や中露を巻き込み、南北の融和ムードを演出した格好である。
 
 厳しく敵対すべき軍事独裁国家とは身をかがめて宥和(ゆうわ)を図る一方、自由主義陣営の平和友好国(日本)に対する韓国の姿勢はなぜか敵対的かつ高圧的だ。
 
12月20日午後3時頃、能登半島沖において、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した。
 
翌日、防衛省が公表した。
 
 この駆逐艦には「SEA SPARROW Mk48 VLS」という艦対空ミサイルを発射できる装置が16セルある。
 
現場を撮影した写真で見る限り、駆逐艦の砲は海自機を向いていないが、このミサイルは垂直に発射できる。
 
つまり、駆逐艦は艦長の決断一つで海自機を撃墜できた、その寸前だったということになる。
 
 本来なら直ちに陳謝し、責任者を処罰すべきところ、なんと韓国国防省は同日「遭難した北朝鮮の船舶を捜索するためにレーダーを運用した。
 
日本の哨戒機を追尾する目的ではなかった」と言い訳した。
 
だが、それは通らない。
 
 なぜなら、防衛省が翌22日に公表した通り「海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断」した結果だからである。
 
 そもそも「火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位や距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当」(同前)である。
 
 加えて言えば、両者は周波数帯も違う。
 
良くも悪くも、自衛隊が約一日がかりで「慎重かつ詳細な分析」を加えた結果なのだ。
 
間違うはずがない。
2018年10月、韓国・済州島で開かれている観艦式で海上パレードする韓国海軍の艦隊(聯合=共同)
2018年10月、韓国・済州島で開かれている観艦式で海上パレードする韓国海軍の艦隊(聯合=共同)
 「火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為」であり、「韓国も採択しているCUES(海上衝突回避規範)において、火器管制レーダーの照射は、船舶又は航空機に遭遇した場合には控えるべき動作として挙げられて」いる(防衛省)。
 
 事実その通りだが、まさに「べき」論でしかない。
 
CUESはあくまで「紳士協定であり、それに拘束されるか否かは基本的に参加国の自発的な意思に拠る」(防衛省防衛研究所『中国安全保障レポート2013』)。
 
「法的拘束力を有さず、国際民間航空条約の附属書や国際条約などに優越しない」(防衛白書)。
 
 
それを、一部政府高官や与党の有力議員らが「国際法違反」と合唱するのはいただけない。
 
日本政府もその自覚があるからか。
 
「極めて遺憾であり、韓国側に再発防止を強く求めてまいります」との表明にとどめている。

 
 こうした抑制的な姿勢が呼び水となったのか。
 
韓国国防省の副報道官が同月24日「人道的な救助のために通常のオペレーションを行ったに過ぎず、日本側が脅威と感じるいかなる措置もなかった」と会見で述べ、「海自哨戒機が低空で韓国軍の駆逐艦に異常接近してきたので、光学カメラで監視したが、射撃管制レーダーからは電波を放射していない」と事実関係そのものを改めて否定した。
 
だが上記の通り、この説明は通らない。
 
 さすがに防衛省も痺(しび)れを切らしたのか。
 
翌25日「本件について、昨日、韓国国防部が見解を発表していますが、防衛省としては、事実関係の一部に誤認があると考えています」との見解を公表した。
 
 その中で「海自P1は(中略)当該駆逐艦から一定の高度と距離をとって飛行しており、当該駆逐艦の上空を低空で飛行した事実はありません」、
 
「火器管制レーダー特有の電波を、一定時間継続して複数回照射されたことを確認」したと主張した。
 
朝日新聞の報道によれば、照射は5分間も続いたという。
 
ならば、なおさらのこと、韓国の主張は軍事技術的に成立しない。
 
要するに、あり得ない。
 
 防衛省は、海自機が計3つの周波数を用いて「韓国海軍艦艇、艦番号971(KOREA SOUTH NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971)」と英語で計3回呼びかけ、レーダー照射の意図の確認を試みた経緯も公表した。
米国のマティス国防長官(中央)、韓国の鄭景斗国防相(右)と握手する岩屋防衛相=2018年10月、シンガポール(共同)
米国のマティス国防長官(中央)、韓国の鄭景斗国防相(右)と握手する岩屋防衛相=2018年10月、シンガポール(共同)
 その前日、韓国は「通信状態が悪く、ともに救助活動をしていた韓国海洋警察(コリア・コースト)への呼びかけだと判断した」とも釈明した。
 
だが、海自は「NAVAL SHIP」と3回も呼びかけたのだ。
 
しかも「HULL NUMBER 971」と艦番号を付して…。それらを「コースト」と聞き間違えるはずがない。
 
 「通信状態が悪く」云々(うんぬん)とも言い訳したが、「当日の天候はそう悪くなかった」(防衛大臣会見)。
 
加えて、もし韓国の主張どおり海自機が低空で異常接近していたのなら、近距離ということにもなる。
 
 
なら、なおさらのこと、彼らの耳には「KOREA SOUTH NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971」とハッキリ聞こえたに違いない。
 
そもそも海自機が接近したというなら、なぜ海自がそうしたように、国際緊急周波数帯などで呼びかけなかったのか。
 
海自機からの呼びかけを無視したあげく、通告も警告もなく、相手に火気管制レーダーを一定時間継続して複数回照射するなど、決して許されない。

 
 以上と同様の経過をたどった事案を思い出す。
 
2013年1月、中国海軍艦艇による海自護衛艦などに対する火器管制レーダー照射が起きた。
 
このときも中国(国防部と外交部)が、レーダー使用そのものを完全否定した。
 
 レーダー照射が危険行為に相当し、国際慣習上も問題があるとの判断を軍指導部が下したからであろう(拙著『日本人が知らない安全保障学』)。
 
その後、日中の主張は平行線をたどった。
 
おそらく今回も、さすがにマズいとの判断を韓国政府が下したから、事実関係を否定しているのであろう。
 
きっと中国同様、韓国も白々しく嘘を突き通す。
 
 当時も今回も、照射を浴びた海自は現場から退避した。
 
威嚇も、警告射撃も、火器管制レーダーを浴びせることもなく、退避した。
 
そうした抑制姿勢が呼び水になったのか。
 
その後も「事実に反する主張を中国はたびたび行った」(防衛白書)。
 
だが、日本政府はそう白書に書くだけ。
 
それ以上の行為には及ばない。
 
そればかりか、中国との「協調」姿勢を示す。
 
 2016年には、中国軍機が自衛隊機に火器管制レーダーを浴びせ、自衛隊機がフレア(おとり装置)を発出して、空域から離脱する一触即発の事案も起きた(拙著『日本の政治報道はなぜ「嘘八百」なのか』)。
 
 このとき日本政府から「国際社会に与える影響も極めて大きく、個人的には遺憾だと思っている」と指弾されたのは、中国ではなく、事実関係をネット上で明かした元空将だった。
 
日本政府はいまだに事実関係を認めていない。
第2次安倍内閣発足から26日で6年を迎えるにあたり、報道陣の質問に答える安倍首相=2018年12月25日夜、首相官邸
第2次安倍内閣発足から26日で6年を迎えるにあたり、報道陣の質問に答える安倍首相=2018年12月25日夜、首相官邸
 以上すべてが安倍政権下で起きた。
 
もちろん今回のことは韓国軍が悪い。
 
だが、こうした事態を招いた責任の一端は日本政府にもあるのではないだろうか。
 
もし、これまで同様の対応に終始するなら、きっといずれ、同様の事件が起こる。
 
 中国や韓国に対して、いくら道理を説いても虚(むな)しい。
 
残念ながら「紳士協定」を守るような相手でない。
 
結局のところ「力」だけが彼らを動かす。
 

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