給料が上がらない根本理由

給料が上がらない根本理由

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

『三橋貴明の「新」経世済民新聞』より

     2019/1/10

明けましておめでとうございます。

昨年末、元国税庁調査官の大村大次郎氏の論考

なぜ日本のサラリーマンの年収はいつまで経っても低いままなのか
の要点を紹介しました。
https://38news.jp/economy/12983

日本は世界一の金持ち国家だが、その大半は、
前から株などの資産をたくさん持っている人に
集中しているというのがその要旨でした。

具体的な数字を挙げてのこの分析には、
大いに納得させるものがありました。

大村氏のこの論考には、
大きな反響があったらしく、
その第2弾がMAG2NEWSに掲載されました。

なぜ他の先進国に比べて、
日本だけが給料が伸びていないのかという問題を扱っています。
https://www.mag2.com/p/news/381708

この論考では、まず2つの理由を挙げています。
一つは、
政官財を挙げて「雇用の切り捨て」を容認し、
推進すらしてきたという点です。以下、引用してみましょう。

《1995年、経団連は「新時代の“日本的経営”」として、
「不景気を乗り切るために雇用の流動化」を提唱しました。

「雇用の流動化」というと聞こえはいいですが、
要は「いつでも正社員の首を切れて、
賃金も安い非正規社員を増やせるような雇用ルールにして、
人件費を抑制させてくれ」ということです。

これに対し政府は、
財界の動きを抑えるどころか逆に後押しをしました。
賃金の抑制を容認した上に、
1999年には、労働派遣法を改正しました。

それまで26業種に限定されていた派遣労働可能業種を、
一部の業種を除外して全面解禁したのです。

2006年には、さらに派遣労働法を改正し、
1999年改正では除外となっていた製造業も解禁されました。
これで、ほとんどの産業で派遣労働が可能になったのです。》

付け加えるなら、
2015年に労働者派遣法はみたび「改正」され、
「ほとんど」ではなく、
すべての業種で派遣労働が可能になりました。

しかも同じ派遣先で働ける期限が
三年と規定されました。

さらに、それまで専門26業務では、派遣先で新規求人する時、
派遣労働者に雇用契約を申し込むことが義務付けられていましたが

それが取り払われたのです。

その結果、非正規雇用の割合は増え続け、
2018年にはほぼ4割に達しました。
これは23年前の約2倍です。

 

正規社員と非正規社員との平均賃金(男性)
の格差がどれくらいかは、次の図表をご覧ください。

 

もう一つ大村氏が指摘するのは、
日本の労働環境が実は非常に未発達だということ。

大村氏は、欧米の労働運動の歴史の長さに触れたあと、
それが労働者の権利をしっかり守るようになった事情について、
ドイツやアメリカの例を引いて詳しく説明しています。

日本の場合は、高度成長からバブル期まで、
賃金の上昇が実現したために、
それまでの労使対立から労使協調路線に切り替わりました。

労使の信頼関係の下に、
「日本型雇用」が成立したのです。

企業は雇用を大事にし賃上げに力を尽くす代わりに、
従業員は無茶なストライキはしない
という慣行が出来上がったわけです。

そのため労働運動は衰退してしまいました。
再び引用しましょう。

《ところが、バブル崩壊以降、
日本の企業の雇用方針は一変します。
(中略)賃金は上げずに、派遣社員ばかりを増やし、
極力、人件費を削るようになりました。
企業が手のひらを返したのです。

そうなると、日本の労働者側には、
それに対抗する術がありませんでした。

日本の労働環境というのは、
欧米のように成熟しておらず、景気が悪くなったり、
企業が労働者を切り捨てるようになったとき、
労働者側が対抗できるような環境が整っていなかったのです。》

よく納得できる説明ですね。
経営者は、景気が悪くなれば、
まず真っ先に人件費を削ろうとするでしょう。

しかしこれに、もう一つ、
よりマクロな観点を付け加える必要があります。

それは、こうした賃金低下を引き起こし、
かつ長引かせた主犯は、緊縮財政に固執する財務省であり、
非正規社員の増加を促した主犯は、

竹中平蔵(派遣会社パソナ会長!)を中心とした、
内閣府の諮問会議に巣食う規制改革推進論者たちだということです

さらに掘り下げて言えば、
これらの政権関係者たちは、「倹約神経症」を患っているか、
さもなくば「自由」という名の亡霊に取りつかれ、
グローバリズムを「いいこと」と信じているのです。

この病気とオカルト信仰のおかげで、
国民が窮乏しようが知ったことではないという境地に達しています

ところで、大村氏は、
こういう事態になってしまったことの解決策として、
二つの提案をしています。

《今の日本がやらなければならないのは、
「高度成長期のような経済成長を目指すこと」ではなく、
「景気が悪くてもそれなりにやっていける社会」をつくることなのです。》

《今、日本がしなくてはならないことは、
日本の中に溜まりに溜まっている富を、
もっときちんと社会に分配することです。》

大村氏の分析には敬意を表しますが、
この解決策には、筆者は賛成できません。

たしかに、先進国では、
高度成長期のような経済成長を目指すことは難しいでしょう。

しかし、他の主要先進国は、
この5年間、どこもそれなりの成長を示しているのに、
日本の成長率はご覧のとおり最低で、0%付近を徘徊しています。

 

そもそも資本主義社会は、
そのスピードに違いはあれ、
常に成長を続けてこそ経済を維持できるのです。

「景気が悪くても」では困るのです。
人々は、貧しくなることを最も嫌います。

景気の悪化は、
デフレ→消費・投資の減退→さらなるデフレという悪循環を意味します
(現にいまの日本がそうです)。
こうして日本人は、この20年間で、どんどん貧しくなってきたのです。

言い換えると、日本政府が取ってきた経済政策は、
資本主義に逆行することばかりやってきたのです。

かつて日本は、
1995年には世界のGDPの17%を占めていたのに、
わずか19年後の2014年には6%を切っています。

日本は急速に後進国化しています。
それは単に、GDPのシェアの縮小という数字的な意味にとどまりません。

国内の需要に、国内での供給をもって応えることができず、
資源、食料、インフラ、エネルギー、国防、技術、労働力など、
あらゆる面にわたって他国に依存しなくてはならない状態を、後進国と呼びます。

いま日本は現にそうなりつつあるのです。
それを急速に進めたのが、
安倍政権のグローバル経済政策であることは言うまでもないでしょう。

大村氏の2つ目の提案、
「溜まりに溜まっている富を、もっときちんと社会に分配する」というのは、
部分的には意味がありますが、
残念ながら、根本的な解決にはなりません。

この提案は、具体的には、
逆進性をもつ消費税の増税凍結、
グローバル大企業の法人税の増税、所得税や相続税の累進性の拡大、
国内設備投資減税、正規雇用促進企業や賃金値上げ企業への減税、などを意味するでしょう。

つまり、徴税の基本的機能の一つである、
所得の再分配をもっと徹底させるということです。

平たく言えば、
お金持ちから貧乏人にお金を流すということですね。

これらには一定の効果は見込めるものの、
お金の面だけで経済政策を考えているため、
肝心のことを見落としているところがあります。

そこには、「富」とは
「溜っているお金」のことだという勘違いが見られるのです。

金持ちから貧乏人にただお金を流しても、
そのお金が消費や生産活動に有効に使われず、
貯金としてため込まれてしまっては、
何の意味もないのです(家計の内部留保)。

では「富」とは何か。
それは、国民すべてが欲しているものを、
なるべく他国に依存せずに生産する力のことを言います。

この力のうち、最も大切なものは、
技術であり、その技術を駆使できる人々の労働です。

哲学者のヘーゲルは、
金持ちがぜいたく品を買う方が、
貧乏人に慈善を施すよりもずっと道徳的だという逆説を述べました(『法哲学講義』)。

なぜなら、高価なぜいたく品には
多数の人々の労働が込められており、
金持ちはその労働者たちの労働に対して
正当な対価を支払ったことになるからです。

一国の経済に関する最大の政治課題とは、
国民が持つ潜在的な生産力をいかに引き出し、
それを流通のシステムにうまく乗せ、
さらにそのシステムをいかに維持し、発展させるかということです。

それが日々の労働によって生きている一般国民を豊かにする道なのです。
このことは古今東西変わりません。

グローバル金融経済がのさばって、
株主資本主義が横行し、
普通の国民生活を圧迫している現代経済。

これを少しでも抑えるには、
それを放埓に許しているいくつもの条件に規制を加えなくてはなりません。

そして、政府が進んで、
資源、食料、インフラ、エネルギー、
国防、技術、労働力(人材育成)などに投資するのでなくてはなりません。

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https://38news.jp/economy/12751

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