本当に国は「借金」があるのか  青山学院大学教授・福井義高

本当に国は「借金」があるのか 青山学院大学教授・福井義高

 

対国内総生産(GDP)比で見ると、先進国のなかで最悪の水準とされるわが国政府の債務残高をめぐって、いろんな角度から議論が行われている。

 しかし、日本政府のように、資金不足を自国通貨建て固定金利国債で調達している場合、建設的な議論を行うには、その「債務」が家計や民間企業の借金とは根本的に性格が異なる点に注意を向ける必要がある。

 ≪債務ではなく政府発行の株式

 それは、ファイナンス研究の泰斗ジョン・コクラン氏が指摘するように、国債が民間企業でいえば負債ではなく、株式に相当するということである。

日銀は実質的には政府の財務管理「子会社」とみなせるので、その発行する銀行券や市中銀行から預かる日銀当座預金も、国債と同様の性格を持つ。

 財政・金融政策について議論する際には、企業業績を評価する場合と同様、政府と「子会社」である日銀のバランスシートを連結して検討する必要がある。

政府・日銀を一体で考えれば、貨幣(銀行券・日銀当座預金)は最も償還期間の短い(期間ゼロ)国債とみなすことができる。

 民間企業が銀行借り入れや社債発行で資金を調達した場合、事前に約束したとおりに返済できなくなる事態が生じる可能性があり、実際に不況期には頻発する。

それに対し、政府は利払いであれ元本償還であれ、常に自力で資金を捻出することができる。

新規に貨幣を発行し、借り手にそのまま渡せばよい。

 借り手からみると、償還期日に残存期間ゼロとなった保有国債の代わりに受け取ることができるのは、貨幣と称する同額面の別の期間ゼロ超短期国債。

政府は一度、国債を発行すると、期限が到来しても、その時点で同じ価値を持つ同じ金融商品と交換すればよいだけなのだ。

要するに、政府の国債発行は企業の株式発行と同じである。

 したがって、資金をすべて株式で調達している民間企業同様、政府は形式的には破産することはない。

 物価水準は国債の「株価」である

 さて、国債が株だとすれば、当然その価格である株価があるはず。

それが物価水準(の逆数)である。

物価が上がると、国債の実質価値は低下する。

実質価値とは名目額を物価水準で割ったものなので、国債の実質価値は、国債の株価である物価水準の逆数に名目額を掛けたものになる。

企業の株式時価総額が株価に株数を掛けたものとなるのと同じである。

 それでは、国債の株価である物価水準(の逆数)はどのように決まるのか。

資金をすべて株式で調達している企業同様、政府発行株式である国債の実質価値は、政府のネットキャッシュフロー、すなわち将来のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字額の割引現在価値に等しい(正確には、それに経済の円滑な運営に必要な流動性資金相当分を加算)。

 したがって、現在の国債の実質価値は、将来の政府財政への市場予想の変化に応じて上下する。

それに対し、国債名目額は動かないので、国債の株価である物価水準(の逆数)が、実質価値の変動に応じて上下しなければならない。

民間企業の場合、将来業績の見通しの変化によって、株数はそのままで株価が変動するのと同じことである。

 増税や歳出抑制によって、将来は財政健全化が実現し、プライマリーバランスが大幅に黒字化すると市場が予想しているのであれば、国債の株価である物価水準(の逆数)は安定する。

実際、今日まで日本の物価は不気味なほど安定している。

 究極の財政再建策は超インフレか

 これは、将来の財政健全化を市場が確信しているからなのか。

そうだとして、それは根拠があるものなのか、それとも単なる希望的観測なのか。

実は、みんな財政再建など無理とわかっていながら、自分だけは暴落前に売り抜けられると考えていることによって生じている国債「バブル」なのか。

 政府が国債償還にあたり、苦し紛れに貨幣発行で対応するような事態になれば、政府の信用はガタ落ちとなり、国債の株価である物価水準の逆数は暴落、要するにハイパーインフレとなる。

 実際にそうした事態に至らなくても、日本政府が通常の財政再建など念頭にないかのような政策を継続すれば、いずれちょっとしたきっかけで、制御不能のインフレが始まる。

 しかし、ハイパーインフレは、国債という国の株式を無価値にすることで、これまでの財政赤字を一挙に清算する、究極の財政再建策でもある。

 予期しないインフレは、実体経済へのマイナスの影響が小さい、効率的資本課税とされる。

ハイパーインフレにもそれが当てはまるかどうかはともかく、大した金融資産を持たない大多数の庶民にとっては、大増税を通じた財政再建よりも望ましい可能性がある。

それが安倍晋三首相の本心だとしたら、大変な策士というしかない。

(ふくい よしたか)

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