日経記事に見る思考停止のパターン From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

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 『三橋貴明の「新」経世済民新聞』

     2019/3/21

     日経記事に見る思考停止のパターン

    From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

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日経新聞もたまにはいいことを書くなあ、とひとまずは思いました。
3月19日の次のような記事に接したからです。

もっとも、「いいこと」と言っても、希望が持てるという意味ではなく、むしろ絶望的な現実をそれなりに見つめているという意味です。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42616170Y9A310C1MM8000/?n_cid=NMAIL007

《経済協力開発機構(OECD)は残業代を含めた民間部門の総収入について、

働き手1人の1時間あたりの金額をはじいた。

国際比較が可能な17年と97年と比べると20年間で日本は9%下落した。

主要国で唯一のマイナスだ。

英国は87%、米国は76%、フランスは66%、ドイツは55%も増えた。韓国は2.5倍。

日本の平均年収は米国を3割も下回っている。》

 

 
この後、同記事には、賃金の値上げをきちんと行ってこなかったために、労働者一人当たりの生産性が上昇せず、生産性が上昇しないためにますます賃金の上昇が抑制されるという悪循環に陥ってきた、という指摘があります。

低賃金を温存するから、(特に3K分野などでの)生産性の低い仕事の自動化・効率化が実施されず、付加価値の高い仕事へのシフトが進まず、結果的に、生産性も賃金も上がらない「貧者のサイクル」に日本は陥っているというわけです。

言っていることは、ここまでは、まあ間違っていません。

たとえば、介護現場を見てみましょう。

この現場では、低賃金できつい労働に耐えなくてはならないため、大量の有資格者が転職してしまいます。

 
介護福祉士の平均月収は、全産業の平均月収に比べて、9万円から10万円近く低いというデータがあります。

https://www.minnanokaigo.com/news/kaigogaku/no89/

これでは、せっかく資格を持っていても、離職したくなるのは当然と言えましょう。

また、この仕事では、年齢に伴う昇給が見られません。

 
その主因は、介護報酬が公定価格であり上限が決まっているところにあります。
さらに、離職率は、小規模施設ほど高くなっています。

給料の低さに反比例しているわけです。

では、離職した人たちの穴埋めをどうするか。
もちろん、一部は求職してきた有資格者を新規採用するのですが、採用率はたいへん低くなっています。

これは、労働需要が高く、供給がそれに追いつかない状態を意味しますから、数字上は、有効求人倍率の高さとして表れます。

有効求人倍率が高い(つまり人手不足)と聞くと、一見いいことのように聞こえますが、その主たる理由も、給料が低いからです

労働需要が高ければ、その結果として給料は上がるはずだ、というのは、一般的な市場原理ですが、事実はそうなっていません。

むしろ因果関係は逆で、給料があまりに低いので、求人しても人が集まらず、結果的に人手不足となるのです。

こうして、無資格の失業者や、コミュニケーション能力に限界のある移民が雇われることになります。

はなはだしい場合には、ホームレスまでが雇用されることもあります。

2009年に、厚生労働省は失業者を対象とした「重点分野雇用創造事業」を行い、失業者やホームレスまで介護職に送り込むプロジェクトを大々的に繰り広げました。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/47873?page=4

要介護レベルの高い後期高齢者がホームレスに介護される――なんだか、廃墟の町と化したビルの谷間か何かで、

 
希望を失った貧困者がお互いをいたわりあっているような、惨めなイメージですね。
 
これで、福祉政策が行なわれていると言えるのでしょうか。

こう見てくると、初めの日経の記事には、言われていないことや間違った認識が含まれていることがわかります。

この記事の最後に、「働き手の意欲を高め、優れた人材を引きつける賃金の変革をテコに、付加価値の高い仕事にシフトしていく潮流をつくり出すことが不可欠だ」と書かれています。

モノの生産やサービスの現場にAIやハイテク機器を導入し、生産性を高めることには異議がありません。

それによって、現場の苦労が少しでも軽減され、その職業の付加価値が高まり、給料も上がることが期待されるからです。

しかし、「働き手の意欲を高め」るのは何によってなのか。

どうすれば、「賃金の変革」が起きるのか。

それを阻んでいる犯人は誰なのか。

「付加価値の高い仕事にシフトしていく」と言っても、きつい肉体労働を強いられる業界(たとえば介護業界や運送業界や建設業界など)がなくなるわけではありません。

もちろん、個人が、より付加価値の高い仕事に「シフト」していくのを抑えることはできないでしょう。

しかし「シフト」されてしまった業界で、もし生産性を高めるような処置がなされず、これまで通りの低賃金・重労働の実態が残されたら、どうなるのか。

ホームレスや移民が雇われて、奴隷労働のような状況が続くのでしょうね。

日経記者は、いまの日本のマクロな経済情勢を見て、その無残な有様を指摘しています。

しかし、それがなぜ起こってきているのかについては、民間企業が賃金を上げてこなかったからだという理由を挙げるだけで、思考停止しているのです。

 
つまり、このデフレ不況がなぜ続いているかについては、口をつぐんでいます。

介護報酬はなぜ上がらないか。

介護報酬のような公定価格だけでなく、一般企業の給料も人材投資に踏み込めません。

一般企業、特に中小企業は、人手不足なのに、なぜ給料を上げられないのか。

それは、安倍政権が緊縮財政を取ってきたために、デフレを終わらせることができないからです。

そこには、ちゃんと政治的な理由がある。

日経のようなマスメディアに限らず、さまざまな領域で、問題が提起されます。

しかし、どれを聞いても、その問題の真犯人が緊縮財政という「経済政策」にあるというところまで話が発展しないのです。

虐待が話題になっています。

児童相談所が、家族への介入(親からの子どもの隔離)の役割に集中しがちだったこれまでの仕事を、養育に問題を抱えた家族を支援する本来の役割に戻すために、医師や弁護士などの専門家と連携を取ることが決まったそうです。

また、この役割を果たすために児童相談所の所員を増員するそうです。

たいへん結構なことですが、その予算をどうやって捻出するのか。

財務省という狂信集団がPB黒字化にこだわって、緊縮財政を取っていては、それもかなわないでしょう。

この狂信集団の考え方に従っている限り、他の予算がそのぶんだけ削られるだけです。

さまざまな領域のさまざまな問題。

解決の最終的なカギは、すべて、十分なお金を回すところにあります。

話を個別領域の個別問題の把握に終わらせずに、ある社会問題について考える時には、この当たり前の一歩にまで、考えを巡らせるようにしましょう。

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