緊縮主義が招く「観光公害」: From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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『三橋貴明の「新」経世済民新聞』
 2019年8月30日

 緊縮主義が招く「観光公害」

 From 施 光恒(せ・てるひさ)
    @九州大学

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おっはようございまーす(^_^)/

「観光公害」という言葉、最近、よく使われるようになってきましたね。

 
「観光公害」とは、多くの観光客がある地域に押し寄せることで、そこで暮らす人々の生活環境が悪化してしまう状態のことを指します。

昨日も、『読売新聞』の社説として「訪日客の急増 分散化で観光公害を防ぎたい」(2019年8月29日)という記事が出ていました。
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190828-OYT1T50360/

自民党の一部の議員は以前、「観光公害」という言葉を使わぬよう報道機関など関係者に要請していたようですが、うまくいかなかったようです。

 
「観光公害」と言わざるを得ない状況が日本のあちこち見られるようになり、この言葉が使われることが増えたからでしょう。

「観光立国」「インバウンド重視」ということが言われるようになってしばらくたちます。

 
政府は観光庁を2008年に設置するなど、観光客、特に外国からの観光客を大量に呼び込む政策に近年、非常に力を入れてきました。

2010年に約861万人、2015年に約1973万人だった外国人観光客を、2020年までに4000万人、2030年までに6000万人にしようと計画しています。

昨年(2018年)は3119万でしたので、東京オリンピックがあることも考えれば、「2020年までに4000万人」という目標は達成しそうな勢いです。

「観光立国」「インバウンド重視」の政策をとるようになった背景には、日本の長期のデフレ不況、およびその一因でもある緊縮財政路線があります。

前回の本メルマガでも書きましたが、デフレ(需要不足)で不景気の時期には、合理的な個人や企業は、お金を使おうとはしません。

デフレ下では、人々の賃金(給与)が下がり、収入は減り、購買力は落ちます。

 
そのためモノが売れなくなるので、企業も投資を手控えます。
 
その結果、ますます需要不足が深刻化し、経済が沈滞していきます。

実際、日本の一世帯あたりの平均所得は「国民生活基礎調査」(厚労省)によれば、

 
1994年がピークで約664.2万円だったのが、2017年には551.6万円まで下がっています。
 
これでは経済が活性化するはずがありません。

日本は、もう20年以上、デフレ不況が継続しています。

 
デフレ脱却のためには、本来、政府が動く必要があります。

政府が、公共投資や社会保障などで財政支出を増やし、需要を作り出さなければなりません。

 
または、政府が民間の消費や投資を促進する必要があります。
 
そのためには減税が効果的です。
 
例えば、消費税を下げる、あるいは企業に対しては投資減税を行うといった政策をとるべきです。

ですが、日本は長らく緊縮財政路線に固執していますので、財政支出を十分に増やすことを決してしてきませんでした。

 
消費税に関しては、減税どころか10月には増税を断行する始末です。)

結果的に、世界でも例を見ないほど長期のデフレ不況が日本では続いています

緊縮財政に固執しつつ、どうにか経済を回していきたい。

 
政府はそう考えつつ、いくつかの策を取ってきました。
 
その一つが、前回のメルマガで触れたことですが、ギャンブルのような人々の非合理な欲求に訴えかけ、金を使わせるという方策です。
 
(施 光恒「カジノと大麻と緊縮主義」(『「新」経世済民新聞』2019年8月16日付))
https://38news.jp/economy/14382

「観光立国」「インバウンド重視」という政策も、政府がデフレ下で緊縮財政路線を意地でも維持しつつ、どうにか経済を回していこうとする苦肉の策にほかなりません。

日本人がお金を使わない(使えない)、企業も国内に投資したくない。

 
日本政府も積極財政を取りたくない。
 
そうであれば、外国人観光客を大量に呼び込んで彼らに使ってもらうしかないというわけです。
 
外国人観光客をどうにか増やすために、入国ビザ(査証)の大幅緩和などの規制緩和が行われてきました。

その結果、確かに外国人観光客は年間3000万人を超え大幅に増えましたが、「観光公害」もまたひどくなってきました。

外国人観光客頼みの経済政策のまずさは、「観光公害」以外にもいくつも挙げられるでしょう。

第一に、国際情勢に左右されやすいことです。

 
最近の韓国のように、日本との関係が悪くなると、外交カードとして訪日客を減らそうという動きが外国で起こってきます。
 
韓国は一応、民主国家ですので政府が日本への観光客の渡航を公式に禁止したりはしないでしょうが、中国は、日本との政治的関係が悪くなれば、そういう手立ても躊躇なくとってくるでしょう。
 
外国人観光客に依存するようになれば、日本は外国の顔色を窺いつつ、外交しなければならなくなる恐れがあります。

第二に、デフレ脱却を目指す政策と矛盾するのではないかということです。

 
外国人観光客を呼び込んでくるためには、日本の物価や賃金は安い方がいいのです。
 
ですが、デフレ脱却を目指すためには、人々の賃金を上げ、需要不足を解消し、物価も上昇傾向を示すような政策をとらなければなりません。
 
観光立国」を掲げることは、デフレ脱却に真剣に取り組むことと矛盾するところが多いのではないでしょうか。

第三に、外国人目線で観光開発がなされ、地域の歴史や伝統がないがしろにされる恐れがあるのではないかという点です。

 
これについては以前、本メルマガで、九州各地に作られている「オルレ」なる韓国人観光客目当ての遊歩道を取り上げ、疑念を呈したことがあります。
 
そちらをご覧くだされば幸いです。
(施 光恒「『観光立国』が損なうもの」(『「新」経世済民新聞』2016年9月2日付)
https://38news.jp/politics/07726

中野剛志さんによれば、『西洋の没落』を書いたドイツの哲学者オスヴァルト・シュペングラーは、外国人観光客頼みの経済政策をとるようになることは、ある国の文明が没落に向かっている顕れだと見ていました。

 
中野さんの著書『日本の没落』(幻冬舎新書、2018年)からの孫引きですが、シュペングラーは次のように述べています。

「……人口の減少したアテナイは、外人の観光により、また(ユダヤ王ヘロデスのような)富裕な外国人の喜捨によって生きていた。

 
そのアテナイでは、急に成金となったローマの旅行賤民どもが、ちょうど今日のアメリカ人がシスチーナ会堂を訪れて、わけもわからずにミケランジェロの作品を眺めているように、ペリクレス時代の芸術品を、何の理解もなく、ポカンとして眺めた」。

中野さんは、このシュペングラーの一節を引きつつ、「観光立国とは、世界史において繰り返されてきた没落の光景なのである」と記しています。

 
国力が落ち、人々は自信を失い、人口も減少し、外国人観光客に頼らざるを得なくなる。
 
「インバウンド」重視を掲げる日本も、没落の途上にあるのでしょう。

どうにか、この状況を反転させ、国の活力を回復させなければなりません。

そのためには、緊縮主義を改め、公共投資の重要性を再認識し、真っ当な経済運営を取り戻していくほかないでしょう。

 
まさに経世済民の基本に立ち返るべきなのです。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

<施 光恒からのお知らせ>
8月31日(土)に、「学ぶカフェ」という福岡の勉強会で講師を務めます。お時間がございましたら、ぜひお越しになってください。

【第31回 学ぶカフェ】
日時:2019年8月31日(土)13時~15時
場所 :千鳥饅頭総本舗 呉服町本店 一階会議室(福岡市博多区上呉服町10-1 博多三井ビル1F)

テーマ
「テクノロジーの奴隷にならなかった日本人――『鉄砲を捨てた日本人――日本史に学ぶ軍縮』を読む」

8月は、いわゆる「歴史認識」をめぐる議論が活発になります。

 
当然ですが、歴史はさまざまな角度からみることができます。
 
今回の学ぶカフェでは、非常に面白い角度から日本史の見方やその世界史的意義を説いている本を紹介しながら、歴史の見方について考えてみたいと思います。
 
具体的には、ノエル・ペリンという米国人の歴史家・作家であるノエル・ペリンが1970年代に書いた鉄砲を捨てた日本人――日本に学ぶ軍縮』(川勝平太訳、中央公論文庫、1991年)(原書は1979年)を手掛かりにします。
 
冷戦の最中だった当時、人類は科学技術(軍事技術)の進歩から逃れられないのだという悲観論が世界中にあふれていました。
 
原爆の次は水爆、水爆の次は中性子爆弾、果てはスターウォーズ構想など、科学技術の発展に伴い、兵器開発がどんどんエスカレートしており、これは止められないという悲観論です。
 
こういう状況のなか、ペリンは軍事技術の発展をコントロールし、平和を実現した例を日本史のなかに見出します。
 
ペリンの議論などをみながら、歴史の見方のさまざまな可能性を感じ取ってみたいと思います。

参加費
大人 2000円
学生 無料(筒井克彦氏 協賛)
申し込み
manabucafe@gmail.com
上記のメール・アドレスに氏名、連絡先、学生であるかどうかを書いてお申し込み下さい。

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