【川端祐一郎】我々の「国民意識」と安倍外​交──『表現者クライテリオン』最新号発売​!

【川端祐一郎】我々の「国民意識」と安倍外​交──『表現者クライテリオン』最新号発売​!

ご存知の方が多いと思いますが、今年の7月号でも『日本外交の大転換──新時代の勢力論』と題して外交を特集しました。

今回も大きな意味では問題意識は共通しているのですが、少し強調するポイントが異なるとも言えます。

前回の特集は、世界的に理想主義(アイディアリズム)が退潮して現実主義(リアリズム)が伸長し、

再び「勢力均衡」(バランス・オブ・パワー)が秩序の形成原理となる時代を迎える中で、

国家や外交にまつわる認識を我々はどのように転換していかなければならないのか、を論じたものでした。

一方、今回の特集は、日本人にとってその転換がいかに難しいことであるか、そして転換の意志がいかに乏しいかという問題を改めて掘り下げる内容になっています。

トランプ大統領は就任前から、「世界の警察」を自認してきたアメリカの外交・安全保障戦略を見直し、アジアやヨーロッパに余計なリソースを割くのはやめて、「アメリカの国益」の追求に集中するのだと宣言してきました。

日米安保やNATOのような同盟関係は割に合わないと感じていて、国外の問題に深入りするぐらいなら米国民を豊かにすることを優先する、というわけです。

これは極めて重要な変化です。

今回の特集の中では会田弘継氏が詳しく解説しているのですが、アメリカはもともと伝統的に孤立主義の国であって、

冷戦時代やイラク戦争の頃のように、世界秩序の管理人(と言いつつ混乱を引き起こしてもきましたが)を買って出ることのほうが例外的です。

だから、トランプ大統領の「引き籠もり」の方針が、一時的なものだと思うべきではない。

むしろそれは、アメリカという国の本質(の一つ)に向けた回帰現象と捉えたほうがいいわけです。

浜崎洋介氏は安岡章太郎の小説を引きながら、アメリカが平和な世界を作ってくれるのだという「幻想」にすべてを委ね、「自己」を抑圧することから始まった戦後日本の歩みを描いています。

それは一種の病理であると言うべきですが、実のところ戦後日本人は、健康であることよりも病人であることの安寧を望んできたわけです。

その幻想がいま、アメリカ側の転換によって崩れ去ろうとしている

「自主防衛」の確立を望む本誌の立場からすれば、アメリカが手を引こうとする流れそのものは、対米依存から目覚めるための一つの好機であると言えなくもありません。

ただ、注意しなければならないのは、猶予は殆どないということです。

柴山桂太氏が香港の民主化闘争などを例に挙げて論じているとおり、グローバル化が招いた「寡頭制」的支配に対する逆襲が各地で起きていて、世界はすでに深刻な混乱の時代に突入しているからです

しかもとりわけアジアでは、アメリカの関与の縮小と中国の膨張によって、紛争の火種は増え続けるであろうと見込まれます。

またそもそも、今まさに時代の転換点を迎えつつあるのだという認識を、どれだけの日本人が持ち得ているのでしょうか。

上島嘉郎氏は、「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権にあってすら、結局のところアメリカの要求を飲み続けるのが外交の基本姿勢であると指摘し、このまま行けば日本人は自立を試みることすらないままに、

「不戦敗」を迎えるであろうと警鐘を鳴らします。

リレー連載「農は国の本なり」のなかで堤未果氏は、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品を武器に農産物市場の支配を目論むアメリカの「侵略」と、

それに抵抗するどころか進んで受け入れてしまった日本の農政戦略の体たらくを、詳細に報告しています。

日本政府は、アメリカの企業が製造するゲノム編集食品に対し、安全性の審査も、ゲノム編集食品であることの表示も義務付けずに、流通を許してしまったのです。

堤氏の言うように、日本の食料品市場は今後、「安全性が未知数の輸入食品」で占められていくでしょう。

佐藤建志氏は、我が国の政府に交渉の能力と意志が不足していることに加えて、タチの悪いことに、都合の悪い情報を平気で隠蔽・歪曲するようになってしまったと指摘します。

例えば、アメリカに対し譲りに譲る結果となった貿易交渉の合意文書について、正式な日本語版を作成しないばかりか、

意図的とも思える誤訳でごまかそうとしてきたというわけです。

こうした対米従属の姿勢というものは、元をたどれば、「米軍に国土を守ってもらっている」という負い目に由来していると言えるのでしょう。

ところが、今回の特集冒頭に掲載した伊藤貫氏のインタビューで詳細に語られるように、「核の傘」を始めとするアメリカの軍事的庇護というものは、現実には(機能として)役に立たないばかりか、

そもそもアメリカの指導者には本気で日本を守る気など無いのです。

冷静に考えれば当たり前の話ではあるのですが、そのことが深刻に反省されてきた形跡は、日本外交にあって極めて希薄であると言わざるを得ません。

しかしこれは、外交官や政治家の責任だと憤ってどうにかなるものとも思えません。

磯邉精僊氏は、我が国唯一の軍事組織である自衛隊においても、独立自尊をかけて他国と渡り合い、場合によっては戦火を交えるほどの気概や覚悟が十分であるかは疑わしいと言います。

しかしそれは磯邉氏の指摘するように、日本国民自身が、名誉と生存のために力の限りを尽くすのだという意志を放棄して久しいことの顕れに過ぎないと言うべきなのでしょう。

上島氏は、国民が憲法の改正や自主防衛の確立を強く求めているにもかかわらず政府がその道に邁進しないのであれば、それは政権の怠慢とされて然るべきであろうが、

実のところ国民自身が戦後レジームを是としたままではないか、と述べています。

まさにその通りではないでしょうか。

もちろん、政治指導者やエリート官僚たちに、その地位にふさわしい勇気や先見性や名誉心が求められるのは自然ではあります。

しかし、領土問題にせよ貿易交渉にせよ安全保障にせよ、国民が本気で望んでいるわけでもないところで、誰が身体を張ろうと思うでしょうか。

つまるところ、「安倍外交の総括」は、我々自身の「国民」としての意識や態度に対する総括でもあるのです。

言論や世論の成熟なくしては、外交の正常化もないでしょう。

ぜひ多くの国民に、この特集を手にとって議論を交わしていただきたいと思います。

『表現者クライテリオン』1月号「引き籠もるアメリカ、すがり付く日本──安倍外交の“真”総括」
https://the-criterion.jp/backnumber/88_202001/

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