書評 しょひょう : 西山邦夫『戦略航空偵察─知られざる平時の戦い』(並木書房)

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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評  
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偵察航空関連資料を収集し、30年かけて本書をまとめた労作
  日本領空はいかにして守られているか

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西山邦夫『戦略航空偵察─知られざる平時の戦い』(並木書房)
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 日本は地政学的に枢要な位置を占めていて、冷戦期から現在まで、米軍が実施する航空偵察の根拠基地として機能している。

 世界戦略を地政学的に解剖すれば、日本の防空がいかに重要な任務であるかが了解できる。

 東西冷戦の初期、日本周辺では米国の偵察機とソ連戦闘機の激しい攻防が続いていた。

米軍機は1951年から56年までの5年間に9機の大型偵察機が撃墜され、多数の人命が失われた。

いずれも日本の基地を発進した偵察機だったのだ。

 現代日本人は、この歴史を忘れている。

 1969年には厚木を発進し日本海で任務についていたEC-121偵察機が北朝鮮のミグ21に撃墜され、乗員31人が犠牲になった。

 ベトナム戦争中は、沖縄の嘉手納基地が米軍偵察機の重要な根拠基地を担い、連日ベトナム上空や周辺を飛行した。

米軍にとって沖縄の基地は後方補給基地であっただけでなく、航空偵察で戦闘に直接参加している基地であり、嘉手納が使えなければベトナム戦争は戦えなかった。

 21世紀に入ると、中国が軍事力を急速に強化し、米軍にとって強力な敵対国に成長した。

対中偵察は以前にもまして重要となり、南シナ海、東シナ海で盛んに米軍の偵察機が活動している。

2001年には海南島沖で米海軍のEP-3偵察機が中国海軍の戦闘機と接触し、海南島の中国軍飛行場へ緊急着陸する事件が起こった。

 このとき米軍機の乗員らは拘束される前に、搭載した偵察通信設備などを破壊した。

 2010年代に入り、北朝鮮は核とミサイルの開発を進め、実験を繰り返した。

北朝鮮が核実験とミサイル発射実験を行なうたびに、嘉手納基地をRC-135Sコブラボールなどが発進し、核・ミサイル開発の状況を繰り返し偵察している。

北朝鮮の核・ミサイル実験の時期が迫ると、これらの偵察機は米本土から嘉手納へ飛来する

同基地は北朝鮮偵察でも欠かせない役割を果たしている。

 米軍の偵察機にとって、日本の地理的位置、とくに沖縄の基地は、中国、ロシア、北朝鮮を偵察機の行動範囲内に置き、さらに東南アジア諸国、中東への経由地でもあって、ほかに代えがたい価値がある。

日本は米軍に基地を提供することにより、米軍の優れた偵察能力がもたらす情報の益を共有している。

 防衛省が毎年公表する航空自衛隊のスクランブル回数が年々増加傾向を示し、2019年にはじつに947回を数えた。

 対象は中国機が約3分の2以上を占め、情報収集を主任務とする新型のY‐9情報収集機や電子偵察能力のある機種がスクランブルの対象となる機会が増えている。

とくにY‐9が奄美から九州南方、さらに日本海まで飛行エリアを広げ、飛行回数を増やしている状況は、中国がこの地域に強い関心を持っていることを示してあまりある。

 ロシアも日本海側、太平洋側を問わず定期的に偵察飛行を実施し、中ロ両国とも米軍が使用する嘉手納、次いで岩国、三沢、厚木の各基地の状況と、自衛隊の軍事施設を偵察する意図が明瞭である。

 もちろん自衛隊機も空自機、海自機がそれぞれ日本海、東シナ海、太平洋を飛行している。

日本列島周辺は日本、米国、中国、ロシアの偵察機が入り乱れて活動する地域になっている。

このような地域は、ほかに例を見ない。

 本書の著者は元空将補で、現役時代は長く情報関係の部署に就いていた。

1983年9月、アンカレッジを離陸した大韓航空(KAL)007便が樺太沖の日本海でソ連戦闘機に撃墜された事件が発生したが、そのとき航空総隊司令部で情報部門の長を務めていた。

退官後も偵察航空に関する資料を収集し、30年かけて本書をまとめた労作である。

 偵察機は、国際法にもとづいた行動をとりながら、常に対象国の状況を把握し、国の舵取りに役立つ情報を国家戦略の決定者に提供する。

 同盟国である米国の偵察飛行についても、関心を持って見守らなければならない。

偵察飛行は、その国の戦略を映す鏡であり、彼らの行動パターンを見極めることが、その国の意図を察知する一助になるからである。 

 防衛に関心のある読者には必読の文献となった。
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